ワインを通じたファンづくりを目指す
高山村は主力農産物である、りんご、生食用ぶどうに続く、3本目の柱として2005年前後から「ワインぶどう」の生産に注力してきました。2015年には村内第1号のワイナリーが誕生し、以降年1〜2軒のペースで新たな醸造所が立ち上がっています。ワインぶどう栽培面積や醸造規模も年々拡大し、ワイン関連の職に就く移住者も増えています。
信州高山村観光協会(以下、観光協会)は「星とワインとゆ」のキャッチコピーを掲げ、これまで観光の看板であった風光明媚な自然や歴史ある温泉に加え、ワインを村の新たな魅力として発信してきました。
一見、ワイン産地として順調な滑り出しをしている高山村。次なる目標は「ファンづくり」であると観光協会事務局次長の藤沢勉さんはいいます。「ワインは、製造過程を体験したり、ジビエ*1 や生ハム*2 とともに楽しんだりとポテンシャルがある」
*1 ジビエ:高山村の猟師が運営する「信州山肉プロジェクト」では狩猟から加工、卸しまで手がけ、ジビエ肉の普及に努めている。現地訪問の夜はワインとともにジビエBBQを予定。
*2 生ハム:高山村のカリスマぶどう農家・佐藤明夫さんは「TONYA」というブランドで原木生ハムを生産。オーナー制度で販売し首都圏に多数の顧客を抱えている。
長野には塩尻や東御などメジャーなワイン産地が名を連ね、ワイン目的の観光客も多いですが、高山村が目指すのは少し違います。「従来の観光は、大型バスでたくさんの人が一気に来て一気に帰るというものでした。しかし、これからは少人数でも村にゆっくり滞在し、広く深く村の魅力に触れてほしい」と藤沢さん。
観光で訪れた村外の人が、ワインを通して高山村の多面的な魅力に触れ、また訪れたい・関わりたいと思うファンになる……
ワイン用ぶどう生産者かつ移住者で、2019年に夫婦でワイナリーをオープンした倉田裕子さんは「いいワインを作るだけでは足りない。よいつくり手に加えて、よい飲み手が必要」と語ります。
「首都圏など消費地で飲んでもらうことももちろん期待しています。ただ理想としては、地元の人に愛され、日常的に家で飲んでくれること。そして、村外の人たちと接する機会の多い、旅館の人たちが『おらが村の、他に負けない美味しいワイン』と誇りをもってくれること」
生産者・醸造者・観光事業者の三位一体が鍵
ファンづくりは、ともすればPRやブランディングなど外に目を向けがちになるもの。一方で、観光協会や村のキーパーソンたちは「まずは高山村ワインを地元の人に愛してもらうこと」が肝要であるという共通認識を持っています。
観光協会の湯本恵さんは「高山村のワインを飲める旅館がまだまだ少ない。ワイン関連のイベントを企画しても旅館や村の人たちがあまり乗っかってこない」と目下の課題を挙げます。ぶどう生産者や醸造家の間では、ワインの機運は高まっていますが、旅館をはじめ地元の人たちには浸透していないのです。
今回のプロジェクトの成果物は、新たなファンづくりのための「ぶどう生産者・醸造者・観光事業者の具体的な連携方策」。プロボノワーカーたちが現地訪問を通じて各ステークホルダーの課題を分析し、足並みを揃えるためのアイデアを出すことが求められています。そのため、旅館や温泉などの事業者や地元住民たちへのヒアリングが今後重要なポイントになっていきそうです。
持続可能で自走可能な提案に期待
ワインぶどう生産者の大内重樹さんは「村の中と外では視点が違うと思います。外部の視点から、どうすれば私たちが望んでいることができるようになるのか意見が欲しい」と期待を寄せます。
「プロジェクト自体は期間限定だが、提案については長期的に考えてほしい」と述べるのは同じく生産者の倉田さん。「今年1回だけやって終わりといったものではなく、自走可能かつ持続可能なものにして、5年後10年後、(プロボノワーカーたちに)こんなに成長したなと思ってもらえるようにしたい」。
観光協会の藤沢さんと湯本さんは「よいことだけでなく悪いことも含めて、外から見てストレートな意見を」と口を揃えました。
キックオフミーティングを終えたプロボノワーカー一行は、このあと村内の視察やステークホルダーへのヒアリング、ぶどう収穫体験などを控えています。はたして“外からの目”には高山村やワインはどのように映るのでしょうか。次回は、現地訪問と中間提案の模様を中心にレポートします。