春休み、夏休みの10日間を使い、村おこしNPO法人 ECOFFが催すボランティア旅で国内外の田舎ヘ赴いてきたのは、この10年で約2千人。大学生を中心とする参加者たちは、現地在住の「世話人」の伴走を受けながら、その日、その時期、そこにあるあらゆる仕事、例えば畑での収穫から、草刈り、収穫物の選別、船や港での水揚げ作業、ビーチクリーン、簡単な土木作業まで、住む人たちの暮らしにできるだけとけ込みながら勤しみます。土地の生業の多くは、ままならない気候、地域のつながりとともにあって刻々と変化するから、旅程は未定。しかし、インフラもサービスも整った町暮らしでは眠ったままの頭と体、感性を働かせる時間は、「またここへ来たい」との里心をも呼び起こしているようです。
これらの体験のまるごとが、ECOFFの考える「地域おこし」。なぜ、彼らはお金を払ってまで働きに来るんだ?——当初、地域の人たちのなかに広がるそんな戸惑い、驚きを親しみに変えながら、活動地域と参加者を着実に増やしてきました。
目的は、地域おこしそれ自体ではない
「誰もが参加できる地域おこし」をうたうECOFFの原点は、代表の宮坂大智さん(台湾の離島、ポンフー在住)が大学在学中から国内外を探検した経験、ことに秘境ともいえる離島で得た学びにあるそう。隔絶された環境にあるからこそ残されてきた、自然と人が密接に関わり合う暮らし。そこから生まれ、受け継がれてきた知恵や文化に価値を見出す宮坂さんは、「地域おこしそれ自体は、活動の目的ではなく、過程」であるといいます。
「地域が消滅したらかわいそう、という感情論だけで地域おこしをうたっているわけじゃない。長い間自然と共生し、里山里海の環境を育ててきた人たちの知恵、文化を残していくために、地域をおこすんです。今は、テクノロジーの発達した便利な社会があるから僕らは生活できていますが、これが失われたらどうなるのか。何が起こるかわからない時代だからこそ、受け継いでいく必要があると思っています。僕らが参加者に伝えているのは、地域に行くこと自体が地域をおこすはじまりなんだよ、ということ。若い人たちが、地域と関わり続けることを生きる選択肢のひとつととらえてくれれば、という思いです」
そんな志に共鳴し、若者たちを受け入れているのが、各地域で農業、漁業、民宿やゲストハウス経営などの本職をもつ「世話人」たち。ECOFFのこれまでの活動地域は、彼らとの信頼関係を土台としながら、北は北海道の離島から、南は鹿児島の離島、沖縄、台湾やベトナムまで全32地域に及んでいます。ただ、参加希望者は受け入れ体制を優に上回り、募集のたびに少なからずのキャンセル待ちが生じているのも事実。また、10日間という活動期間は、学生参加者たちの学びと満足感につながる一方、社会人の参加を難しくもしています。
この限界を、団体の理念を成しとげる上での課題ととらえるECOFFが掲げたのが、二つの目標です。
①活動地域を広げるため、地域と参加者を橋渡しする「親善大使」(仮称)をおく
②社会人を想定した短期の「村おこし旅」(仮称)を設計する
プロボノワーカーとの協働は、これらを実現するための決断。総勢10名のプロボノチームとの初顔合わせとなったオンラインミーティング、程なく行われた追加ミーティングでは、この目標にかけるECOFFの思いや、チームとの協働により目指すところが議論されました。
親善大使は都市在住、一島専任
現在のECOFFの旅は、参加者と現地世話人を「エリアマネージャー」が橋渡しする体制で運営されています。宮坂さんを含むECOFFのスタッフ3名が、この役に就いて全地域を分担し、募集内容(日程、定員、活動内容など)の調整、応募の管理、参加者への事前の諸連絡、開催期間中のバックアップなど、多岐にわたるタスクを担当しています。
新規地域での橋渡し役として想定する「親善大使」は、一島(または一地域)専任。現エリアマネージャーが地域側在住であるのに対し、親善大使には都市在住者に就いてほしいといい、「愛着のある島や地域のために何かしたい、という方たちによる“都会と地域の親善のための大使”です」と宮坂さん。現地世話人の開拓も、この親善大使に期待する役割だといいます。現在、西日本エリアマネージャーを務める鹿児島県種子島在住の理事・山田文香さんは、「例えば東京在住の親善大使なら、旅のあとも東京の参加者と交流を続けたり、地域イベントを開いたり、今のエリアマネージャーたちができずにいることを、思い入れをもってできるのではないか」と、展望を語ります。
「私みたいな人」を増やす旅
一方、ECOFFのもう一つの目標である「村おこし旅」の背景には、この企画を担当する理事の山田さん自身の体験に基づく、強い思い入れが存在しています。
大学を卒業して就職し、「仕事に打ち込む日々が始まると思っていたけれど、打ち込めなかった」という山田さん。違和感を抱えたまま始めたひとり旅をきっかけに、離島の自然や文化に夢中になり、鹿児島県の小さな離島、宝島で開催されたECOFFのプログラムに参加。そこで島の人々の暮らしにカルチャーショックを受けた体験(詳細は次回以降のレポートにて)を経て、自らECOFFのボランティアスタッフとなり、種子島移住にまで至ったのです。
「私にとって、もやもやを打破するきっかけとなったのがECOFFでした。だから、島での生活は、たとえ短期間でも社会人にとってターニングポイントとなり得ると思っています。その機会を提供するプログラムをつくることで、私みたいな人をもっと増やしたい。それは『誰もが参加できる地域おこし』というECOFFの理念にもつながります」
この社会や環境の行く末に目を向けて活動するECOFFの意志を受け取り、このあと北海道奥尻島、岩手県三陸漁場、東京都三宅島、大分県屋形島、鹿児島県種子島へと赴くプロボノチーム。理念の実現へ向け、具体策を探る旅の始まりです。