河北潟は石川県では最も大きな湖沼。金沢市・津幡町・内灘町・かほく市にまたがり、その広さは2,248ha(東京ドーム480個分)にもなります。その2/3が干拓され農地に。麦・大豆類・れんこん・すいか・キャベツなどの大規模栽培が行われ、なし・ぶどうなどの果物も栽培されています。また酪農も盛んで、石川県内で消費する牛乳の半分近くを生産しています。
景色がよく、車を走らせると真っすぐに続く農道に、車窓から見える牧草地は、まるで北海道にいるような気分にさせてくれます。水辺はヘラブナやライギョの釣りスポットとなっており、貴重な野鳥も多く見られ、バードウォッチングにも最適な場所です。
美しい河北潟を、とりもどそう
一方で、1963年から20年余りかけて整備された干拓事業により、河北潟の自然環境はがらりと変わりました。かつては海とつながり、ウナギ、シジミなどが生息していた水域は、海水を遮断する水門(下写真)ができたことで、水質汚濁が進み、ゴミがたまるような状態になりました。
こうした問題を解決しようと活動してるのが、NPO法人 河北潟湖沼研究所です。環境NPOとして、河北潟の環境改善を目指し、在来植物の保護や、生物多様性の保全など、25年にわたり取り組んできました。現在では、農薬や化学肥料を使わない「すずめ野菜」の生産販売や、契約農家が栽培する「生きもの元気米」の販売、金沢駅前で定期的にマルシェを開催するなど、活動の幅を広げています。これらはすべて、河北潟の環境に関心を持ってもらうための取り組みです。
設立当初から取り組んでいる水質改善は、現在も重要なミッションの一つです。河北潟には、20近くの河川や排水路を通して、生活用水や工場・事業場排水などが流れこんでいますが、水の汚れを表すCOD*1は、環境基準*2を上回ったままです。
*1 COD:化学的酸素要求量。水の汚れを酸化剤で化学的に分解する時に必要な酸素の量。数値が大きいほど、汚れが進んでいる。
*2 環境基準:環境を良好に保つために維持することが望ましい基準として定められたもの。
プロボノとの協働、再び
そこで河北潟研究所では、「とりもどそう!河北潟 泳げる湖、おいしい魚、安心して使える水」をビジョンに掲げ、活動を行っています。その一つとして3年前から行っているのが、河北潟流域ツアー(以下、流域ツアー)です。このプログラムは、河北潟に流れ込む川の上流から下流までをバスで巡り、流域の活動が河北潟に与える影響について考えてもらおうというもので、県内や北陸から、毎回、30人ほどが参加しています。
河北潟湖沼研究所理事長の高橋久さんは、上流と下流で暮らす人たちをつなぎたいと、企画した理由を話します。
「河北潟や下流域に溜まる濁った水やゴミは、上流から流れてきます。水質汚濁も改善させるには、上流から下流までの人たちが、河北潟について関心を持ってもらい、意識してもらう必要があるんです」
河北潟は、いわば“流域の自然環境を写す鏡”なのです。
そこで、このツアーをブラッシュアップし、主要コンテンツに育てていきたいと、高橋さんは考えています。そのためには、参加者のターゲットはこれでいいのか?ツアー構成は?継続的に運営していくためにはどうすればいいのか?など、いくつもの課題があります。
今回、ツアー構築にあたり広く意見を募りたいと、ふるさとプロボノへ参加することを決意しました。プロボノチームと協働し、ツアーをはじめとする新エコプログラムのアイディアが出ることに期待しています。
実は河北潟湖沼研究所は、2年前にもプロボノチーム(Panasonic NPOサポート プロボノプログラム)と協働した経験があります。
「そのときは、『生きもの元気米』*3の首都圏への展開について、いろいろなアイディアをいただきました。プロボノのみなさんには、とても一生懸命にやっていただいたのを覚えています。とても役に立ちましたし、今でもそれを参考にしながら進めているんですよ」
*3 生きもの元気米:河北潟湖沼研究所が河北潟の農家と契約し、栽培している米。農薬の使用制限や、生きもの調査を実施。食べれば食べるほど生きものも田んぼもみんなが元気になるお米として販売。
観光は、風土・自然・環境があるからこそ
高橋さんは、新しいプログラムを作ることで、多くの人に、河北潟に訪れてもらいたいと考えています。
「一人でも多くの人に、もっと河北潟に関心を持ってもらいたい。そのために、河北潟の魅力を知ってもらうサービスがいろいろとできればいいと思っていて、流域ツアーもその一つとして始めたんですよ。他の地域の湖って周りにいろいろなものがあって、観光で訪れる人が多いんですね。そういう意味ではここは、観光で訪れるエリアにはなれていないと感じています。観光というのは、その土地の風土や自然、環境があるからこそ成立するもので、河北潟はそういう意味ではいいものをいっぱいもっているので、観光してもらえる場所だと思います」
河北潟に人に訪れてもらうための仕掛けを探し出すのが今回の目標。それは、河北潟湖沼研究所のビジョン達成への一歩でもあります。
「ここに、多くの人に訪れてもらうことが、河北潟を大切にしなくてはいけないという地域の機運の醸成につながっていく。それが、ひいては環境保全につながっていくんです。今回も、こちらが思いもつかない、考えもつかないアイディアが、プロボノチームから出てきたらいいなというか、面白いなと思っています」
プロボノチームの活動は、まずはベースとなる「河北潟流域ツアー」を体感することから始まりました。10月中旬、プロボノチームから、山竹(やまちゃん)さんと野田(のだちゃん)さんが参加したのです。今回は、津幡町で酒づくりにも使われている湧き水や用水路、津幡川から河北潟までを、1日ゆっくり巡りながら、生きものや植物を観察したり、バードウォッチングを楽しみました。河北潟湖沼研究所のスタッフや地元の人、参加者などと交流し、農地が広く広がる河北潟の風景を初めて目の当たりにした2人。果たして、河北潟はどんな姿に映っていたのでしょうか。ふるさとプロボノ in 河北潟、スタートです。