■「ものずき村」の取り組み
日本でも有数の豪雪地帯で、コシヒカリの産地としても知られる新潟県魚沼市。ここで長く暮らしを営んできた高齢者たちが、自分で育てたコメや穫れたての野菜・果物・花・山菜など大地の恵みを販売し、手打ちそばをふるまっているのがJR只見線沿いに位置する「ものずき村」です。他の日本の地方地域と同様に、魚沼でも人口減少・高齢化とそれによる耕作放棄地の課題は深刻です。ものずき村ではこれまでも、地域の小学生と共に農産物を育てる企画や休耕田をキャンバスに見立てた「もみがらアートコンテスト」の実施など、農産品直売所の枠を越えて地域内外の人が集い、地域を盛り上げる場としての機能を大切に考えてきました。
さらに新しい挑戦として立ち上げられたのが、都市部に住む人たちに農作業シェアリングを呼びかける「ものずき村 里山応援プロジェクト」でした。都市部の人たちに魚沼の自然の中で農作業に参加してもらい、その収穫の恩恵を参加者や地域の生産者で分かち合う試みです。
この企画立案の中心となったのは、魚沼市地域おこし協力隊の米本さんでした。魚沼の自然と暮らしを維持し、生産持続性を高めるための関係人口を増やす試みである一方、参加者である都市生活者にも、農作業の体験を通して今の農村の暮らしを知り、自分の生き方を見直してもらったり、新たな視点を見つけてもらえるような機会として魅力的な内容を目指しています。米本さん自身も首都圏での長い企業勤務経験を経て、現在は東京/魚沼の二拠点を往復しながら魚沼市の地域おこし協力隊として活動しています。
とはいえ、都市圏で配布を試みた案内チラシへの反応はうすく、この企画を魅力的に思ってもらえるのはどのような人たちなのか、参加者が満足できる企画内容なのか、手探りの状態が続いていました。
そこで、今回のプロボノプロジェクトでは、ターゲットである都市生活者層にとっての「ものずき村 里山応援プロジェクト」の魅力を明らかにするため、複数のプロボノワーカーにパイロットとして農作業シェアリングを実体験してもらい、成果物として企画の改善提案を行ってもらうこととなりました。
■参加した人たちの思い
ものずき村の「農村体験企画へのパイロット参加と改善提案」プロジェクトは、2023年5月から順次GRANTでの募集を通じて実施され、それぞれに複数名が参加、10月には多くのパイロット参加者も魚沼に再集結しました。
5月:はらまきさん、かしあすさん、Junkoさん、いっちーさん
6月:こばさん、浦島花子さん、カナさん、Kayomiさん、ひがっきーさん(ものずき村別プロジェクト参加からの再滞在)
8月:きんちゃんさん、にっしーさん
10月:ubuntuさん、かしあすさん(再)、カナさん(再)、Kayomiさん(再)、ひがっきーさん(再々)、きんちゃんさん(再)、にっしーさん(再)
プロジェクトにエントリーしたプロボノワーカーたちは、農業や二拠点生活などに興味がありつつも実際の農作業は初めての人や既に都市農業に関わりを持っている人、関西や関東からの参加など、さまざまです。
「生産者と消費者という分け方だけではない、地方と都心部の関わり方を一緒に模索したい」(はらまきさん)、「農村での体験がどのような商品価値を持てるのか、実際に自分で体験して、新しい価値の創造に加わりたい」(浦島花子さん)など、農村地域と都会との新しい繋がり方の模索について、仕事や経験のスキルを持ち都市部に住むプロボノワーカーだからこそ貢献できる可能性を感じて応募した人や、「里山移住に興味があります。今後の参考にしたい」(カナさん)、「新潟県出身、現在都内暮らしで新潟との接点を持ちたいと考えていた」(ubuntuさん)など、まさに「里山応援プロジェクト」のターゲットとなりうる人たちが、魚沼地域の人たちとのふれあいや自然の中での農作業体験への期待を持って参加しました。
■手から手へ、かぼちゃ栽培のバトンを渡すプロジェクト
各回の現地滞在前には、参加者全員がZoomで初めて顔合わせをし、米本さんから「どうしたら人口減少が定常化する魚沼を持続的な地域にできるかを、都市生活者であるプロボノワーカーの皆さんに一緒に考えてほしい」との思いと共に、魚沼の現状やプロジェクトの目的、現地滞在時のプログラムの説明を受けます。
現地には2泊3日以上滞在し、その中には半日以上の農作業に関わる体験が含まれています。8月実施回では、夏季休暇を利用して4泊5日間、現地に滞在した参加者も。本年度の「里山応援プロジェクト」の農作業シェアリングで栽培するのはプレミアムかぼちゃ“あかもん”です。春から秋にかけてパイロット参加者は、苗植え、畝作り、定植、茅引き、除草、収穫、出荷など時期折々のあかもん栽培に関わる農作業に携わりました。
畑での農作業以外にも、山菜採集やはちみつ抽出、塩麴作りなど地域特産物の収穫や製造、周辺観光拠点の視察に加え、外部の人間が関わりづらい「江浚い」などの地域の共同作業を「里山応援プロジェクト」へのパイロット参加者視点で体験します。ものずき村運営の中心メンバーや魚沼市などへの移住者との対話機会も大切なプログラムのひとつでした。
現地滞在終了から約2週間後、米本さんとプロボノワーカーはZoomで再会し、現地体験での気づきをたがいに共有します。その後、ワーカーたちはそれぞれ深めた考察を改善提案にまとめて納品しプロジェクトを完了しました。
■プロジェクトの成果、見えてきた課題
世代や性別を超えてプロボノワーカーたちの多くが挙げた「里山応援プロジェクト」の魅力は、地域に暮らす人たちとの飾らない交流でした。魚沼の人たちの暮らしや里山との付き合い方など、軒先やガレージで車座になって語らう機会は得難いもの。一方で、地域外の人たちの魚沼滞在の受け皿となる宿泊場所の確保が急務であることも明らかになりました。
プロボノワーカーたちはプロジェクトへの参加を通じて、魚沼などの農業地域が直面する課題への気づきを得ました。「ニュースなどではあまり実感が無かったが、今回過疎化など農村の抱える問題を身近に感じるきっかけになり、関心が高まった」(Kayomiさん)、「個人経営の小さな田畑が放棄地となりつつある現状を知ることができた」(かしあすさん)、「農村の問題の理解・再考や地域おこしの現場を知ることができた」(浦島花子さん)
さらに、これまでやこれからの自分の生き方を考えるきっかけを得たプロボノワーカーも。「地方との二拠点生活を現実的なものとして考えるきっかけになった」(ひがっきーさん)、「活動を通して自分の人生について振り返った。このような形での地域や人との出会いという機会が作れるのは新しい発見だった」(浦島花子さん)、「このプロジェクトに参加し、今後の自身の生活の方向性が少し見えました」(カナさん)
ものずき村の米本さんは「都市部に暮らす人たちが魚沼と接点を持つためのアクションを起こすきっかけとなりうる様々な視点を拾い出してくれたことが大変有意義でした。課題の本質に向き合い打開策を共に考える取り組みだったので、プロボノワーカーの皆さんにとっても、単なる農業体験や農作業の応援と異なり、色々考える機会としてもらえたように思います」と語ります。
■個々がつながり、いつしか仲間へ
プロボノワーカーたちは、これまで経験したことのない一次産業に関連する実体験への価値と共に、様々な人との出会いや交流を「里山応援プロジェクト」の強い魅力として挙げています。「観光ではなかなか経験できない現地の方々と交流ができた」(Kayomiさん)、「地元の方から直接話を聞けたことが有意義だった」(いっちーさん)など、地域の人たちの日常に触れる交流を通じて、プロボノワーカーたちは地域への思い入れを深めることができたようです。
「地域を盛り上げようと奮闘する人々に出会えた」(こばさん)、「地域に溶け込む姿勢が素晴らしく、皆さんに受け入れられていることを目の当たりにしました」(にっしーさん)など、地域課題に地道に取り組む外部人材の姿に目を向けた参加者もいました。
GRANTでの個人プロジェクトでありながら、複数のプロボノワーカーの同時滞在だったため、「共に活動したメンバーは多様性があり、多彩な方が多く、刺激を頂きました」(かしあすさん)、「地域の方々との交流やプロボノ参加者を含め、魅力的な人との出会いがあった」(浦島花子さん)、「チームワークでの作業では、自分の弱みとそれをサポートしてくれる周囲の力を感じた」(ubuntuさん)など、参加者同士の交流にも価値が感じられたようです。
ものずき村とプロボノワーカーたちはSNSでつながり続け、10月には多くの過去参加者が魚沼を再訪問することができました。その後も大阪や東京で参加者が声をかけあっては集まり、魚沼での体験やこれからを語りあう機会も持たれています。
プロボノワーカーたちからの提言を受けて、米本さんは翌年度の「里山応援プロジェクト」では、魚沼ならではのコメ作りにも挑戦しています。ものずき村では“あかもん”と共に、力強い“よそもん”応援団も育まれつつあるようです。
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■魚沼で農作業のシェアをしてみたい人のターゲットプロファイル作成
情報の整理や構成の整え、画像・動画素材類のセレクトなどから、実際にホームページの作成
「里山応援プロジェクト」を実行して頂き、その実体験を持って企画内容の改善提案
【ふるさとプロボノについて】
ふるさとプロボノ は、2021年6月「第18回オーライ!ニッポン大賞 審査委員会長賞」を受賞しました。過去の事例を活動紹介動画ページに多数まとめていますので、ぜひご覧ください。「ふるさとプロボノ」の取り組みが、第2回「ソトコト・ウェルビーイング未来アワード2024」を受賞。2024年7月24日(水)に表彰式が行われました。
【参考】
育休取得中のママたちによる子育て世代チーム、デジタルに特化した課題解決を担うチーム、同じ企業社員チームのプロジェクトなど、バリエーション豊かに広がりを見せるふるさとプロボノの様子をお伝えするセミナーの様子は、以下のアーカイブよりご覧いただけます
開始 ふるさとプロボノの概要
15:10 和歌山県紀の川市の事例
23:40 新潟県魚沼市の事例
31:00 トークセッション1
52:35 ママボノ、企業プロボノのご案内
56:00 広島県の事例とママボノ、企業プロボノの参加者トーク
1:16:50 トークセッション2
1:44:00 今日のまとめ サービスグラントの提案
【主催者について】
認定NPO法人サービスグラントは、NPO・地域団体等の組織運営や事業活動に役立つ具体的な成果物を届けるプロジェクトを、2005年からコーディネートしてきました。これまでに参加したプロボノワーカーは5,500名以上、実施プロジェクトは1,350件を超える、国内最大規模のプロボノ運営団体です。
【お問い合わせ】
本セミナーに関するお問い合わせや取材のご連絡は、お問い合わせページからお気軽にお寄せください。
担当 認定NPO法人 サービスグラント 岡本、横道