南河内の里山とはぐくむ30年、プロボノ目線で活動の成果を可視化する「事業評価」 (完)

大阪府南河内郡河南町など

NPO法人 里山倶楽部

事業評価

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里山講座は「実学的」、スモールファームは「憧れ的」

12月下旬、プロボノチームは里山倶楽部の過去5年間の受講者を対象とするオンラインヒアリング(8名)と、アンケート調査(約100名)を実施しました。これらの調査結果をもとに、1月下旬の「プレ報告会」で最終成果物の提案内容を確認。約90ページに及ぶ報告書をまとめて、2月14日の「最終報告会」に臨みました。

調査報告のポイントは次の3つ。

  1. 里山、無農薬農業の魅力が参加者に確実に伝わっている
  2. 講座内容だけでなく、メンバー、雰囲気の良さが潜在的魅力に
  3. 広報強化、講座の工夫でさらなる広がりを

アンケートの結果によると、「里山講座」と「スモールファーム」はともに9割以上が「期待した通りの内容」「期待した以上だった」と回答。過去の受講者の満足度はきわめて高いことがわかりました。

現地でのヒアリング

両講座の受講生の属性、参加動機を見ると、次のことがわかりました。

  • 「里山講座」
    3分の2は男性。里山の保全に関する実践的な知識や技術を習得するために、遠方から明確な目的を持って参加した人も多い。
  • 「スモールファーム」
    4分の3は女性。大阪市内在住者が半分を占めており、農作業を経験してみたい、無農薬農業に興味があるなど、農業への憧れや食の安全性を意識する都市生活者が多い。

プロボノチームは、里山講座は「実学的」、スモールファームは「憧れ的」な要素が参加理由の背景にあると分析しました。いずれの講座も「季節の恵みや自然の大切さを再認識した」「里山保全に対する関心が強くなった」など、受講者は意識の変化を実感。特に「スモールファーム」で行動の変化が目立ち、畑などを借りて家庭菜園や農作業を始めた人が6割にのぼりました。里山倶楽部の活動は、何らかの意識や行動の変容を促すきっかけとなっていることが今回の調査データから裏付けられています。

また、「スモールファーム」の受講者の9割近くが、森づくりや果樹林の手入れ、生きもの観察など里山関連の講座にも興味があるという結果が出ました。これに対して里山倶楽部のみなさんからは「意外だった」との反応も。今後の参加については、「都合が合えば」というハードルをいかにクリアしていくかが、カギとなるようです。

芋掘り体験

外部からの視点やコラボレーションがもたらすもの

プロボノチームからは次のようなアイデアや提言もありました。

  • SNSの有効な活用方法
  • 参加者の再受講を促すための仕組みづくり
  • 受講者から運営サポーターを募る
  • 無農薬野菜の通販強化
  • 近隣の空き家を活用した宿泊拠点事業 など

最終報告を聞いた里山倶楽部の寺川裕子さんは、「ファクトが積み上げられて説得力がある。これまで肌感覚で何となく感じていましたが、客観的に分析してもらったことで納得できました。参加者のフォローアップやSNSによる情報発信は、私たちの今後の課題。できるところから取り組みたい」とコメント。

里山倶楽部代表の新田章伸さんは「『スモールファーム』参加者が里山の活動にも興味を持っていることが嬉しかった。私たちは逆だと思いこんでいました。里山の保全があってこそ、農業が成り立っている。講座でもそれを伝えてきたことで、農業と里山との橋渡しができていると感じた」と語りました。

なごやかな雰囲気のなかで、活発な意見やアイデアが出た最終報告会。里山倶楽部にとって2回目のプロボノプロジェクトでしたが、この4カ月で得た手応えは、予想以上だったようです。

「外部からの視点はすごい。外からつつかれるのは大変ですが、必要だと感じました」(寺川さん)

「東京から里山の現場までみなさんに足を運んでいただいて、私たちも刺激になりました。単なる見学ではなく、外部の人たちとコラボレーションできる企画は、これからもできる限り取り組んでいきたい」(新田さん)

「草の根」の活動が人を変えていく

最終報告会を終えたプロボノチームの感想は、どうだったのでしょうか。 今回のプロボノプロジェクトの成果として求められた「事業評価」とは何か。チームのみんなで悩んだのが、カタチのないものを手探りで考えなければならない難しさでした。

マーケッターの田中伸也(しゅり)さんは「パンフレットやウェブサイトの制作ならば成果物が明確ですが、今回はミッション自体が難しかった。経済合理性と別の価値観に基づく里山の暮らしは、ふだん自分が暮らす環境とまったく違うので、多くの気づきや刺激がある。今後の生活のありかたを考える貴重な機会になりました」と、この4カ月間を振り返ります。

里山倶楽部とプロボノチームのメンバー

プロジェクトマネジャーとして参加したまりこさんは、今回のプロボノ活動を通じて自分の立ち位置を再確認できたと話します。
「里山倶楽部さんの草の根のような地道な活動が、多くの方の人生に影響を与えていることに気づきました」

きっしーさんは、里山について学んだことで、里山に関連する本を読むなど、自分の意識や行動が変わったそうです。
「明日すぐに農業を始めることはできないけれど、自分のなかの種まきになりました。世の中にはさまざまな課題を抱える人たちがいるので、プロボノワーカーの力を活用できる裾野は広いと思います」

里山というキーワードでつながる仲間たち。得意な領域が違うからこそ、プロボノワーカー同士もお互いに垣根を超えた学びを共有できたようで、「社会人として、さまざまな年代やバックグラウンドを持つ方と一緒に活動する経験は、貴重だと感じました」と、みほさん。

プロボノプロジェクトに参加する前は、相続した実家の山林や田畑の管理が大変で困っていたという、関和夫(カズ)さん。
「里山倶楽部の参加者の声を聴くなかで、田畑や山林を活用しないのはもったいないという気持ちが芽生えたことが自分にとって大きな変化。『スモールファーム』の鈴木さんをお手本に、今年から私も有機栽培での米作りに挑戦したいと思っています」

これに対して鈴木さんは、「いつでも質問してください。成果を楽しみにしています」と、関さんを激励。「スモールファーム」は来季も定員オーバーで、次回からは平日講座も開催する予定だそうです。

今回は新型コロナウイルス感染症緊急事態宣言の発出で移動が制限され、現地訪問は1回のみでしたが、里山倶楽部で過ごした2日間はプロボノチームにとって忘れられない経験となったようです。山にあるものですべてをまかなう暮らし。多様な生きものが関わり合うことで、里山の豊かさや命が循環していく。

「今回のご縁を大切にしたいので、また里山にいらしてくださいね」(西川阿樹さん)
「必ず行きます」
「また一緒に何かをやりましょう」
「鈴木さんの野菜をネットで購入したい」

プロボノチームと里山倶楽部の話は尽きません。そこにはオンライン越しながらも、里山で焚き火を囲んだ夜のような心地よい空気が流れていました。

【プロジェクトの進展】
12月9日 「調査方針提案」に対するフィードバックと承認
12月19日~12月26日 アンケート送付、外部ヒアリングを実施
1月23日 「プレ報告会」を実施
1月24日~2月13日 最終成果物のブラッシュアップ
2月14日 最終報告会

調査方針提案の終了後、プロボノチームはアンケート内容を見直し、「里山と暮らす応援講座」(以下、「里山講座」)と「スモールファーム自給塾」(以下、「スモールファーム」)を分けて現状把握をすることに。2回目の現地訪問(12月初旬)で団体と成果物の方向性を確認し、過去の受講者にヒアリングする予定だった。しかし、コロナ禍で訪問中止。やむなくオンラインで外部ヒアリングとアンケート調査を実施した。プロボノチームのミーティング回数は、4カ月間で合計29回。リアルに会えないなかでSlackやZoom、メールを駆使し、距離や時間を超えたプロボノチームと里山倶楽部との新たなつながりのカタチの模索が続く。

プロボノチーム

まりこさん(プロジェクトマネジャー)

ベンチャーで新規事業開発を担当。前職は登山・自然関連の出版社。今は仕事で自然に関わる機会がないため、プロボノ活動で何か貢献したい。

きっしーさん(マーケッター) 

エネルギー会社でマーケティング担当。職場以外での関わり×社会貢献×ビジネスで役に立てる機会があると知り、プロボノ活動に参加。

みほさん(マーケッター) 

都内の企業でマーケティングリサーチを担当。プロボノ活動で自分のスキルを生かしつつ、「本業+α」の働き方や暮らしを確立したい。

しゅりさん(マーケッター) 

外資系金融機関で業務企画を担当。都内在勤の視点から、事業者の方々が認識していない価値や魅力を可視化し、発信につなげたい。

カズさん(ビジネスアナリスト) 

食品卸の会社で物流企画を担当。数年前に実家の山林や田畑を相続し、地方が抱える過疎化や耕作放棄地の課題に関心がある。

地域団体

地域概要

河南町は大阪府と奈良県の県境にあり、大阪市内から車で約1時間。金剛・葛城連山のふもとに広がるベッドタウンに農地が点在し、古墳時代や飛鳥時代の史跡も数多く残る。

団体概要

「新しい“里山的”生き方・暮らし方の提案」をテーマに、里山で実践的な学びの場を提供。森林や棚田の保全活動、無農薬野菜の生産販売、環境教育、人材育成事業などを展開。

プロジェクト概要

里山倶楽部の活動参加者のその後を調査。里山での学びは、実際に役立っているのか。受講後の暮らしや意識の変化など、30年にわたる活動の成果を可視化する。

調査方針提案の終了後、プロボノチームはアンケート内容を見直し、「里山と暮らす応援講座」(以下、「里山講座」)と「スモールファーム自給塾」(以下、「スモールファーム」)を分けて現状把握をすることに。2回目の現地訪問(12月初旬)で団体と成果物の方向性を確認し、過去の受講者にヒアリングする予定だった。しかし、コロナ禍で訪問中止。やむなくオンラインで外部ヒアリングとアンケート調査を実施した。プロボノチームのミーティング回数は、4カ月間で合計29回。リアルに会えないなかでSlackやZoom、メールを駆使し、距離や時間を超えたプロボノチームと里山倶楽部との新たなつながりのカタチの模索が続く。

プロボノチーム

まりこさん(プロジェクトマネジャー)

ベンチャーで新規事業開発を担当。前職は登山・自然関連の出版社。今は仕事で自然に関わる機会がないため、プロボノ活動で何か貢献したい。

きっしーさん(マーケッター) 

エネルギー会社でマーケティング担当。職場以外での関わり×社会貢献×ビジネスで役に立てる機会があると知り、プロボノ活動に参加。

みほさん(マーケッター) 

都内の企業でマーケティングリサーチを担当。プロボノ活動で自分のスキルを生かしつつ、「本業+α」の働き方や暮らしを確立したい。

しゅりさん(マーケッター) 

外資系金融機関で業務企画を担当。都内在勤の視点から、事業者の方々が認識していない価値や魅力を可視化し、発信につなげたい。

カズさん(ビジネスアナリスト) 

食品卸の会社で物流企画を担当。数年前に実家の山林や田畑を相続し、地方が抱える過疎化や耕作放棄地の課題に関心がある。

地域団体

地域概要

河南町は大阪府と奈良県の県境にあり、大阪市内から車で約1時間。金剛・葛城連山のふもとに広がるベッドタウンに農地が点在し、古墳時代や飛鳥時代の史跡も数多く残る。

団体概要

「新しい“里山的”生き方・暮らし方の提案」をテーマに、里山で実践的な学びの場を提供。森林や棚田の保全活動、無農薬野菜の生産販売、環境教育、人材育成事業などを展開。

プロジェクト概要

里山倶楽部の活動参加者のその後を調査。里山での学びは、実際に役立っているのか。受講後の暮らしや意識の変化など、30年にわたる活動の成果を可視化する。

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里山講座は「実学的」、スモールファームは「憧れ的」

12月下旬、プロボノチームは里山倶楽部の過去5年間の受講者を対象とするオンラインヒアリング(8名)と、アンケート調査(約100名)を実施しました。これらの調査結果をもとに、1月下旬の「プレ報告会」で最終成果物の提案内容を確認。約90ページに及ぶ報告書をまとめて、2月14日の「最終報告会」に臨みました。

調査報告のポイントは次の3つ。

  1. 里山、無農薬農業の魅力が参加者に確実に伝わっている
  2. 講座内容だけでなく、メンバー、雰囲気の良さが潜在的魅力に
  3. 広報強化、講座の工夫でさらなる広がりを

アンケートの結果によると、「里山講座」と「スモールファーム」はともに9割以上が「期待した通りの内容」「期待した以上だった」と回答。過去の受講者の満足度はきわめて高いことがわかりました。

現地でのヒアリング

両講座の受講生の属性、参加動機を見ると、次のことがわかりました。

  • 「里山講座」
    3分の2は男性。里山の保全に関する実践的な知識や技術を習得するために、遠方から明確な目的を持って参加した人も多い。
  • 「スモールファーム」
    4分の3は女性。大阪市内在住者が半分を占めており、農作業を経験してみたい、無農薬農業に興味があるなど、農業への憧れや食の安全性を意識する都市生活者が多い。

プロボノチームは、里山講座は「実学的」、スモールファームは「憧れ的」な要素が参加理由の背景にあると分析しました。いずれの講座も「季節の恵みや自然の大切さを再認識した」「里山保全に対する関心が強くなった」など、受講者は意識の変化を実感。特に「スモールファーム」で行動の変化が目立ち、畑などを借りて家庭菜園や農作業を始めた人が6割にのぼりました。里山倶楽部の活動は、何らかの意識や行動の変容を促すきっかけとなっていることが今回の調査データから裏付けられています。

また、「スモールファーム」の受講者の9割近くが、森づくりや果樹林の手入れ、生きもの観察など里山関連の講座にも興味があるという結果が出ました。これに対して里山倶楽部のみなさんからは「意外だった」との反応も。今後の参加については、「都合が合えば」というハードルをいかにクリアしていくかが、カギとなるようです。

芋掘り体験

外部からの視点やコラボレーションがもたらすもの

プロボノチームからは次のようなアイデアや提言もありました。

  • SNSの有効な活用方法
  • 参加者の再受講を促すための仕組みづくり
  • 受講者から運営サポーターを募る
  • 無農薬野菜の通販強化
  • 近隣の空き家を活用した宿泊拠点事業 など

最終報告を聞いた里山倶楽部の寺川裕子さんは、「ファクトが積み上げられて説得力がある。これまで肌感覚で何となく感じていましたが、客観的に分析してもらったことで納得できました。参加者のフォローアップやSNSによる情報発信は、私たちの今後の課題。できるところから取り組みたい」とコメント。

里山倶楽部代表の新田章伸さんは「『スモールファーム』参加者が里山の活動にも興味を持っていることが嬉しかった。私たちは逆だと思いこんでいました。里山の保全があってこそ、農業が成り立っている。講座でもそれを伝えてきたことで、農業と里山との橋渡しができていると感じた」と語りました。

なごやかな雰囲気のなかで、活発な意見やアイデアが出た最終報告会。里山倶楽部にとって2回目のプロボノプロジェクトでしたが、この4カ月で得た手応えは、予想以上だったようです。

「外部からの視点はすごい。外からつつかれるのは大変ですが、必要だと感じました」(寺川さん)

「東京から里山の現場までみなさんに足を運んでいただいて、私たちも刺激になりました。単なる見学ではなく、外部の人たちとコラボレーションできる企画は、これからもできる限り取り組んでいきたい」(新田さん)

「草の根」の活動が人を変えていく

最終報告会を終えたプロボノチームの感想は、どうだったのでしょうか。 今回のプロボノプロジェクトの成果として求められた「事業評価」とは何か。チームのみんなで悩んだのが、カタチのないものを手探りで考えなければならない難しさでした。

マーケッターの田中伸也(しゅり)さんは「パンフレットやウェブサイトの制作ならば成果物が明確ですが、今回はミッション自体が難しかった。経済合理性と別の価値観に基づく里山の暮らしは、ふだん自分が暮らす環境とまったく違うので、多くの気づきや刺激がある。今後の生活のありかたを考える貴重な機会になりました」と、この4カ月間を振り返ります。

里山倶楽部とプロボノチームのメンバー

プロジェクトマネジャーとして参加したまりこさんは、今回のプロボノ活動を通じて自分の立ち位置を再確認できたと話します。
「里山倶楽部さんの草の根のような地道な活動が、多くの方の人生に影響を与えていることに気づきました」

きっしーさんは、里山について学んだことで、里山に関連する本を読むなど、自分の意識や行動が変わったそうです。
「明日すぐに農業を始めることはできないけれど、自分のなかの種まきになりました。世の中にはさまざまな課題を抱える人たちがいるので、プロボノワーカーの力を活用できる裾野は広いと思います」

里山というキーワードでつながる仲間たち。得意な領域が違うからこそ、プロボノワーカー同士もお互いに垣根を超えた学びを共有できたようで、「社会人として、さまざまな年代やバックグラウンドを持つ方と一緒に活動する経験は、貴重だと感じました」と、みほさん。

プロボノプロジェクトに参加する前は、相続した実家の山林や田畑の管理が大変で困っていたという、関和夫(カズ)さん。
「里山倶楽部の参加者の声を聴くなかで、田畑や山林を活用しないのはもったいないという気持ちが芽生えたことが自分にとって大きな変化。『スモールファーム』の鈴木さんをお手本に、今年から私も有機栽培での米作りに挑戦したいと思っています」

これに対して鈴木さんは、「いつでも質問してください。成果を楽しみにしています」と、関さんを激励。「スモールファーム」は来季も定員オーバーで、次回からは平日講座も開催する予定だそうです。

今回は新型コロナウイルス感染症緊急事態宣言の発出で移動が制限され、現地訪問は1回のみでしたが、里山倶楽部で過ごした2日間はプロボノチームにとって忘れられない経験となったようです。山にあるものですべてをまかなう暮らし。多様な生きものが関わり合うことで、里山の豊かさや命が循環していく。

「今回のご縁を大切にしたいので、また里山にいらしてくださいね」(西川阿樹さん)
「必ず行きます」
「また一緒に何かをやりましょう」
「鈴木さんの野菜をネットで購入したい」

プロボノチームと里山倶楽部の話は尽きません。そこにはオンライン越しながらも、里山で焚き火を囲んだ夜のような心地よい空気が流れていました。

【プロジェクトの進展】
12月9日 「調査方針提案」に対するフィードバックと承認
12月19日~12月26日 アンケート送付、外部ヒアリングを実施
1月23日 「プレ報告会」を実施
1月24日~2月13日 最終成果物のブラッシュアップ
2月14日 最終報告会