富山湾に面する富山県氷見市は、富山市から車で約45分。魚が美味しい富山の中でも有数の漁師町です。特に冬の出世魚「ブリ」が有名で、全国へ出荷されています。
「こんなに人が、どこにおったん!?」といわれるマルシェ
漁港近くにある氷見市中央町商店街が、今回のプロジェクトの舞台。道路の両側に店舗が並び、その長さは200mほど。歩道部分にかかるアーケードや看板の文字のデザインから、懐かしい昭和の雰囲気を感じる空間です。
この商店街を歩行者天国にして3年前から開催されているのが、「うみのアパルトマルシェ」です。おしゃれなカフェやレストラン、アクセサリーや雑貨のクラフトショップなど、県内外からやって来る30〜60店舗が並ぶだけでなく、ハンモックや、くつろげる椅子とテーブルが設けられたりと、親子で楽しめる工夫も見られます。平均来場者は、30〜40代のファミリー層を中心に約1,600人。最も多い時で約2,700人が足を運びました *。全国から人が集まるとされる氷見の漫画関連イベントで、毎年800人前後の来場者数であることを考えると、集客力のすごさがわかります。
「もう本当にびっくりしました。800人も来ないと思っていた。やってよかったなと思いました」と、マルシェを初めて開催した時の感想を語るのは、氷見市中央町商店街振興組合会長の加納瑞穂さん。商店街の人たちも「こんなに人が、どこにおったん!?」と驚いたそうです。
* 今年は新型コロナウイルスの影響で5〜9月は開催中止。9月はオンラインマルシェに挑戦。
マルシェの背景には切実な商店街の現状
このマルシェを運営しているのが、氷見市中央町商店街振興組合、氷見市商工振興課の商店街担当職員で構成される「うみのアパルトマルシェ実行委員会」です。その中で実務を担っているのが、4年半前から氷見市有期職員として勤める村上史博さん。中央町商店街の活性化に取り組み、3年前、商店街の人たちと共にマルシェを立ち上げました。
マルシェを始めた理由は切実でした。2016年当時の調査によれば、中央町商店街を含む周辺商店街は“約3割が空き店舗”、“後継者が決まっている店舗は30%以下”、“20年後には5割近くが空き店舗”という現実。中でも中央町商店街の状況は、より深刻でした。「新規出店者を獲得して商店街を活性化するにはどうすればよいか」。商店街の人たちと村上さんが一緒に考えた結果が、マルシェ開催でした。
村上さんは、「マルシェでこのエリアの価値を高めることを目的としています。さらに、マルシェが(商店街の出店へ)一歩踏み出すためのテストマーケティングの場にもなれば」といいます。まずは商店街エリアのイメージアップを図る。人が交流する場となり、最終的には新規出店者を獲得し、にぎわいをつくりたいと考えています。
「うみの“アパルト”マルシェ」
中央町商店街の店舗は、基本は3階建てで、2階以上を住居にしている人たちがほとんどです。建物は鉄筋コンクリート造りで、壁を共有する形で店と店が接しています。店の集まりが一つの大きなビルとなっているため、1店舗だけを取り壊すことができず、全体で取り壊すにも多額の費用がかかります。老朽化が進み、商店街に新陳代謝が起こりにくい原因の一つとして考えられています。
こうした建物群は「防災建築街区」と呼ばれ、50年ほど前、火災や災害を防ぐために造られました。当時、国の施策として全国に建てられたため、中央町商店街と同じような形で鉄筋コンクリート造りのビルが残る商店街は少なくありません。 マルシェは、このビル群をパリのアパルトマンに見立て、「うみのアパルトマルシェ」と名付けられました。ビルを古い時代遅れなものではなく、レトロととらえ、それに共感してくれる人をターゲットとする。マルシェの狙いが見てとれるネーミングです。
マルシェを始めて1年半、若い世代の新規出店者1号を獲得し、2020年10月時点で商店街には3店舗がオープン。その成果も着実に現れています。
地域交流の場をなくさないために
これまで、マルシェ開催当日までは、実行委員会事務局の村上さんが一人で運営してきました。しかし、氷見市有期職員でもある村上さんが、来年3月に退職し、氷見を離れることに。他のメンバーは、マルシェ当日だけ設営、交通整理などに携わるボランティアや、氷見に移住して間もない人がほとんどであったため、運営の引き継ぎが急務になりました。
そこで、ふるさとプロボノ in 農山漁村に参加し、プロボノワーカーとともにマルシェの運営マニュアルづくりに取り組みます。村上さんの頭の中にある事務的手続きや開催までのタイムスケジュール、出店者募集方法などをマニュアルにすること、それを引き継ぐ人たちにとって使いやすいものにすることが、プロジェクトのミッションです。
市役所の職員やマルシェ関係者に依頼すればよいのでは? とも思えますが、村上さんは、「周りだけでやっていると見えないところもある」と考えています。さまざまな業種で専門スキルを持つプロボノワーカーなら、どんなマニュアルが必要だと思うか? どうすれば柔軟にマルシェを続けていけるマニュアルがつくれるか? その視点に期待しています。
さらに、“裏”目的もあると村上さんはいいます。
「第三者に手伝ってもらえるからこそ、チームビルディングのきっかけができる可能性が高いと思っていて。第三者がいるからこそ、より真剣になれるところがあると思う」
プロボノワーカーが、マルシェ運営の目標や意図を引き出していくやりとりに、他のメンバーも巻き込むことで、村上さんの地域コミュニティ、地域経済活性化への思いが伝わることを期待しています。思いを共有できることでメンバーの絆が深まり、今後のマルシェもさらに発展していくはずです。
ここまで育ててきた地域交流の芽を、さらに育んで商店街活性化の花を開くため、プロジェクトがスタートします。