2024年3月14日、全国の行政職員・中間支援組織・地域づくりに携わるみなさまを対象に、『新たな関係人口とつながる仕組み「ふるさとプロボノ」~19地域32のプロジェクト事例報告会~』を開催しました。
本レポートでは、メインパートの1つである「事例発表Part2」についてお届けします。
⇒「事例発表Part1」はこちらからご覧ください。
⇒ イベント全編の動画はこちらからご覧いただけます。
事例発表Part2では、地域のニーズと外をつなぐ「コーディネーター」と、プロジェクトに参加した「ママボノ」と「企業プロボノ」の方々から事例発表をいただき、続けてトークセッションへ進みたいと思います。
ママボノは、育児休業中や結婚や出産で離職されて再就職を目指すママたちによるプロボノで、2013年の開始以来700名以上の参加者と、109団体への支援実績があります。
企業プロボノは、企業単位で取り組むプロボノです。社会貢献活動やCSR活動、リアルな社会課題に取り組む越境学習の機会として、企業様と協働して運営しています。
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コーディネーターとして関わる、ふるさとプロボノの事例
コーディネーター/WAKU WAKU GAKKO 高野 哲成さん(WAKU WAKU GAKKO 代表)
広島県尾道市でWAKU WAKU GAKKOという取組みをしている高野と申します。
2013年から大人を対象にした学びの場「尾道自由大学」をやってきましたが、2023年から「WAKU WAKU GAKKO」に改名して、子どもたちも含めてすべての人とともに笑い合い、学びあえる場を作りたいと思って活動しています。
その中でプロボノを知り、今回ふるさとプロボノでご一緒することになりました。
ここから2つのプロジェクトを紹介させていただきます。
1つ目は、この後お話しいただくママボノのみなさんが来てくださったプロジェクトです。
尾道市は瀬戸内海にある地域で、しまなみ海道にある生口島で活動しました。大阪から移住して来られた長光祥子さんが、島の豊かな食、特に自然と食がつながっている環境の魅力を、もっと多くの人に知ってもらいたいという思いで「Feast forest project ごちそうの森」として活動されています。
▼プロジェクトページ(活動内容の整理と参加者募集用チラシ構成案作成)
https://grant.community/projects/608
すごい広い農園を、山の中に購入されて、いま一人で開拓されています。場所の整備やイノシシを獲って調理すること、誰かに届けることなど、やることはたくさんあって、多くのボランティアの方も手伝ってくださっていますが、それを持続可能にしていくためにどうしたらいいか、自分たちで考えているだけでは視野が拡がらない、と悩まれていました。
いろんなヒアリングをする中で今回のプロジェクトにつながり、都市部に住むみなさんがどういう風に団体と関わっていくことができるかを検討しました。
2つ目のプロジェクトは、広島県北広島町にあるNPO法人 西中国山地自然史研究会さんとの取り組みです。生物関係や地域の歴史などを学術的に研究されているみなさんが、地域活性というよりは地域をいかに持続可能にしていけるか活動している団体です。
いろいろなご相談もあった中で、今回は薪の在庫管理の仕組みに取り組んでいただきました。薪工場を運営されていて、地域の中の循環だけではなく都市部の方へ販売もされていて、薪の在庫量や納入先の情報をメンバーで共有できるような効率性が求められていました。
▼プロジェクトページ(ICTツールを活用した、里山保全につながる木・薪の「在庫管理」設計)
https://grant.community/projects/534
参加者から見た、ふるさとプロボノの経験
参加メンバー/ママボノ 福田彩さん(デザイナー/フリーランス)
参加メンバー/ママボノ 小林千夏さん(大手通信企業勤務)
―――高野さんがコーディネートされた1つ目のプロジェクトに参加されたママボノのメンバーを代表して、福田さんと小林さんから実際の経験について伺いたいと思います。ふるさとプロボノの印象はいかがですか。
福田さん ふるさとプロボノの感想としては、楽しかったし、やって良かったと思っています。
小林さん 私としても、すごい充実した時間だったと思っていて、家族みんなで滞在できたこともすごく大きいです。ただ旅行するだけではない深いつながりとか、共通の体験ができたということと、ママ同士の結束力や集中力が想像以上にすごくて、毎週1時間のミーティングでギュっと濃密な形で走り抜けられました。私は第一子が生まれたタイミングで今回参加して、働き方を変えなきゃいけないと思っていたので、すごくいい刺激と、ママでもここまで出来るという希望をいただきました。
―――いつものお仕事や、参加されたきっかけについてご紹介いただけますか
福田さん いまはウェブデザイナーとして、ロゴデザインやホームページ制作を行っていますが、ママボノをやろうとしたときは働いていた結婚式場を退職するタイミングでした。元々育休中にもママボノには興味がありましたが、そのときはできなくて、今回時間が出来たタイミングでプロジェクトを知って、これから始めるデザイン関係だったことから縁を感じて勢いで応募しました。
小林さん 私はふだん会社員で、通信企業の人事として育成や組織開発の仕事をしています。個人でもワークショップデザインやキャリアコーチをしたり、地域の関係人口を増やしていくプロジェクトにも参画したりしています。
ただ私にとって出産が大きくて、働き方や地域との関わり方がだいぶ制限されるんじゃないかと思っていました。でもママボノであれば、家族でちっちゃい子供を連れて行ってもなんとかなるかもしれないというのがありました。働き方という意味でも、家族で地域に滞在するという意味でも、すごい良いチャレンジができそうだと思って参加しました。
―――プロジェクトのハイライトや、活動はいかがでしたか
福田さん プロジェクトは5人のチームで行いました。週に1度のミーティングはウェブで行って、2023年7月末の現地滞在では主にヒアリングを行ったり、ごちそうの森を体感させてもらいました。それを持ち帰って、事業内容の整理と、体感した内容でプログラムを作り上げて、そのプログラムをチラシにする構成案を作りました。
小林さん 団体をされている祥子さんが、ごちそうの森をこの先も続けていく中で、何を中長期的な活動として、どのような戦略で拡げていけばいいか迷いがあるということでした。最終的な成果物にいたるまでの間に、どんなミッションやビジョンで活動していくかという整理や、まずはここから取り組むと良さそうだよねという中期的なゴール、そこに向けたステップを一緒に整理することもさせていただきました。
―――ありがとうございます。ここでもう一人のゲストをお招きしたいと思います。企業プロボノとして「ほやほや学会」のプロジェクトにご参加いただいた秋田さんです。
参加メンバー/企業プロボノ 秋田 浩貴さん(日立製作所)
秋田さん 企業プロボノに参加した秋田です。日立製作所の他部署のメンバー6名のチームで、宮城県石巻市の「ほやほや学会」さんを支援しました。
宮城県でよく獲れるホヤという海産物の認知度向上や販路拡大を目的に活動されている団体さんです。ほや伝道師という会員の方々と、一緒に活動を盛り上げていくことがあまりできていないという課題感を抱えていて、それに対して会員管理の考え方や管理ツールの選定、業務フローなどを主に支援させていただきました。
▼プロジェクトページ(「ほや伝道師」の登録制度におけるツール選定と業務フロー整理)
https://grant.community/projects/631
―――報酬を得ないプロボノの活動に、どうして企業人が参加されるのか、まだハテナな方もいると思います。秋田さんが参加されたモチベーションを教えてください。
秋田さん いくつかモチベーションはありましたが、大前提として私が社会貢献に興味がありました。本業務では公共機関のお客様にシステム提案をする営業をしていて、楽しくやれているものの、もうちょっと身近に自分自身で手触り感を持って社会貢献をしている実感を持ちたいという思っていました。その上で、弊社とサービスグラントさんが一緒に提携して、NPO法人などを支援するプログラムとして「企業プロボノ」があると知って応募しました。
普段の業務ですと同じような方々としか仕事をしないこともありますが、プロボノでは本業務では関わることのできなかった社内の方々や、ほやほや学会の方、ほやほや学会の活動に関わる漁師さんであったり、いろんな人と会うきっかけにもなるのかなと思って参加して、本当にいろんな人脈ができました。
ふるさとプロボノの経験と、これからのつながり(トークセッション)
―――まずは広島県尾道市の「ごちもり」から掘り下げていきたいと思います。大都市の方がイノシシの解体もされる現場に行かれると、カルチャーギャップが起こることもあると思います。福田さんや小林さんは、第一印象や地域理解を深めていく過程はいかがでしたか。
福田さん まず資料を読んでミーティングをしている段階ではあまり見えていなかったと思います。実際に行ってみることができたことはすごく大きくて、足を運んでからのインパクトもめちゃめちゃありました。行ってみないと感じられないことだったと思いましたよね。
小林さん イノシシを目の前で解体してくれて、美味しいごちそうを出してくれると聞いて、みなさんどう思いますか。私は結構びっくりしまして、初めて現地の生口島に行ったときも美しい島だなと思ったのですが、高野さんの車でごちそうの森に登ったとき、想像以上に本気の森だと思って正直びっくりしました。都会の人が「映える場所だね」と行くところではなかったです。
ただ、その後に、たくさんの方のお話を伺って、祥子さんの思いだったり、ふるまってくださる料理を味わせていただいて、2日目に自分たちで歩いて森を越えて場所にたどり着いたときに全く印象が変わったんです。
福田さん 自分が変わったのを感じました。
小林さん 団体の代表の祥子さんは、本気で自然と人の共存共生に向き合っていて、その手段として食をキーワードに豊かさを届けていく活動をしていることが体感として理解できました。なので私たちの役割としては、ここに人を連れてくることがすごく大事だと思ったので、まず行ってみたいと思うきっかけとなるアプトプットを作りたいと気持ちが変わりました。
―――コーディネーターの高野さんが、受け入れる側として工夫されたことですとか、地域とママボノの方を繋ぐときのご心配などはありましたか。
高野さん 一番つなぐところで苦労したのは気候ですね。7月の真夏でしたので、一人でも体調を崩される方が出ないようにしようと頑張りました。成果については、代表の祥子さんの人間力というものに惚れ込んで、みなさんに祥子さんを紹介したいという思いもありましたので、成果のことはあまり心配せずにスタートしました。
―――成果物を作る上でのこだわりポイントや気を付けたところなどお話しいただけますか。
小林さん 祥子さんがいろんな思いを抱えつつ、どこから着手したらいいか悩まれていたので、短期的なことだけではなく中長期まで含めて、どんな思いを大切にしたいか、どんな課題を解決していかなきゃいけないかといったことを一旦洗い出して整理したのは、プロセスとしてのこだわりでした。
福田さん キャッチコピーを決めるところは、みんなでいろいろ話し合った印象があります。私たちの中では「ガチな自然だったよね」という話がすごく出ていて、キャッチコピーにも入れたいという話でいたんですけど、祥子さんからの感想で「あれはガチな自然ではないんだよね」とおっしゃっていたんです。
コンクリートで舗装されているし、自然に戻したいからいま活動していると聞いたときに「なんかまだ足りないんだな」と思って、私たちが作ったのは構成案であって、そこから祥子さんや、ごちもりのみなさんで使っていって、新しい人に伝えられるものにしていってもらいたいと思って、そのズレも発見でした。
小林さん 本当に壮大なことをされているので、やっぱり来てもらって体感してこそ伝わる意義あることだったり、子どもの個性や親の感性を開放できたり、自然との共存共生とかを前面に出すというより、もっと身近にメリットとして感じられることが目に入るようしたり、そうした工夫もしました。
―――大半のことはオンラインでできますが、リアルの力強さみたいことは、このプロジェクトでも活かされたと感じます。
秋田さんにもお話を伺えればと思いますが。本業とはだいぶ違う活動で、考えによっては負荷が増えてしまい本業がおろそかになるということもあり得ると思うのですが、その辺りいかがですか
秋田さん 参加する前は本業とのバランスを見ながらやらないと、という前提があって、おろそかになることも懸念してたのですが、なんならその逆でした。社会人になって3年目ということもありますけど、チームとして活動する一連のプロセスを体験しながら学んでいき価値提供ができる、その経験を本業でも活かせるという感覚がちゃんとあります。
企業プロボノに参加するのは2回目になりますが、企業プロボノには、自分自身の新たな気づきとかスキルの獲得にもなりつつ、本業にも活かせて行けるメリットがあると感じています。
―――ICTツールの活用を団体さんに支援したことで、ご自身がICTの力みたいなものを実感されたことはありましたか。
秋田さん 本業でもITでの価値提供をしているものの、お客様が中央官庁などすごく大きいレイヤーの話になっていて、手触り感を持って自分自身が価値提供できているか少し疑問を感じるところはありました。ただ、こうしたコンパクトな形で提案させていただく機会を持つことで、手触り感のある価値提供ができて、ダイレクトに役に立っているという実感がありました。
---ありがとうございます。次に高野さんがコーディネートされた2件目のプロジェクト団体の河野さんに、薪の在庫管理をデジタル化した支援について感想をいただければと思います。
河野さん NPO法人 西中国山地自然史研究会の河野です。最初は困りごとを洗い出してみようと現場のスタッフと一緒に考えました。薪がどんどん入ってきて、どこに何があるからわからない、一人でしか把握できていない、こういうのを解決できるアプリがあったらいいよね、ってちょっとつぶやいたことが本当に半年以内で出来上がって、いまビックリしているところです。
―――そのアプリをいまも活用されているんですよね
河野さん そうですね。スタッフが2人働いていますが、いままでは1人でしか出来なかったことが、アプリを作っていただいたおかげで片手で操作しながら薪の注文を受けたり、配達をすることが可能になっていると聞いています。
---最後に河野さん、高野さん、ふるさとプロボノをふりかえっていただき、きょう参加された方に向けて何かメッセージをいただけますでしょうか
河野さん 都市の方が、私たちの住む小さな地域に来ていただいて、日本の中で繋がった実感があります。気になるエリアが増えて、日本中に親戚が増えるような感じになるんじゃないかなという感想です。ありがとうございます。
高野さん ふるさとプロボノを一言でいうと、学び合いかなと思っています。祥子さんの魅力や、その場の魅力、体験したら伝わるのは百も承知でしたが、その祥子さんの言葉を整理して遠くの人に届けてくれるツールができました。これから活動が広がっていくのと、祥子さんやごちそうの森に関わってくれるパートナーができたと思っています。これからも学び合いの良い形で続いて行ったらと思います。
⇒「事例発表Part1」はこちらからご覧ください。
⇒ ふるさとプロボノのリアルドキュメンタリーはこちらからご覧いただけます。
主催者について
認定NPO法人サービスグラントは、NPO・地域団体等の組織運営や事業活動に役立つ具体的な成果物を届けるプロジェクトを、2005年からコーディネートしてきました。これまでに参加したプロボノワーカーは5,560名以上、実施プロジェクトは1,380件を超える、国内最大規模のプロボノ運営団体です。
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担当 認定NPO法人 サービスグラント 岡本、横道