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初顔合わせとなったキックオフミーティングでは、いすみライフスタイル研究所(以下、いラ研)からプロボノチームに対して、いすみ市の自然環境と暮らしの実情から、市の「生物多様性戦略」の成り立ち、学校給食米の100%有機化を実現した行政や農業生産者の人々の横顔、いラ研が応援するオーガニック商店「いすみや」への思いまで、本プロジェクトの背景が広範にわたって紹介されました。それは、プロジェクトの主題である“いすみオーガニック”という運動が、一過性のものではないことを知る貴重な一歩でした。
他方、本プロジェクトの成果物となるパンフレットの制作に向けては、焦点が定まらずにいました。直後に行われたチーム内ミーティングでは、
「いすみオーガニックのストーリーは壮大。自分たちは何をどこまで伝えることが求められているのか」
「パンフレット制作の目的は、いすみオーガニックの商品を買ってもらうこと? それとも携わる人たちのストーリーを伝えること?」
「伝えたい相手は地元の人たちなのか。それとも市外へアピールしたいのか」
など、制作目的や方向性に関する疑問、仮説を洗い出し。10月中旬、まずはコンセプトを明確にすべく、現地へ向かいました。
体感した「いすみオーガニック」
この日、初めていすみ市で顔をそろえたプロボノチーム。道々、田畑の連なる牧歌的な雰囲気を感じながら、いラ研理事長の高原和江さん、副理事長の江崎亮さんに伴われて訪ねたのは、二組の農業生産者でした。
一人は、農事組合法人「みねやの里」代表の矢澤喜久雄さん。2012年、いすみ市が「自然と共生する里づくり連絡協議会」を設立し、環境保全型の有機稲作への転換を推進し始めたとき、最初に手を挙げた人であり、いすみ市の学校給食米の有機化に至る、いわば道づくりから携わった先駆者です。もう一人は、「自然と共生する里づくり連絡協議会」有機野菜連絡部会の部会長で、約40年にわたって有機野菜づくりに取り組んできた近藤立子さん。学校給食米の有機化を進める市に対し、「野菜も使ってほしい」と自ら働きかけ、風穴をあけた人です。いずれもごく短時間の会話だったものの、学校給食に情熱を注いできた二人の言葉は、その端々から「子どもたち」へのまなざしが感じられ、深い印象を残しました。
続いて訪れたのは、マクロビオティック料理研究家、中島デコさんの「ブラウンズフィールド」。こんもりと木々に囲まれた美しい土地で、できる限りの自給自足を目指しながら、家族や仲間たちと共に無農薬無肥料で作物をつくり、カフェや宿を営んでいます。自然にとけ込むようなその暮らしぶりは多くの人を引きつけており、プロボノチームの杉山良子(すぎちゃん)さんも、この日のいすみ訪問後、「ブラウンズフィールドにいた子どもたちが、裸足で遊んでいた光景がとても印象に残っている」と振り返りました。
見出したポテンシャルと、定まらない方向性
この日のミーティングには、高原さん、江崎さんを含め5人のいラ研メンバーが集合。プロボノチームは、その一人ひとりから聞き取りを行うことができました。そこでチームが改めて確認したのは、いラ研が今、いすみオーガニックの活動に注力していこうとしている根底には、有機農業に取り組む農業生産者の人たちへのリスペクトがあり、その人たちが「食べていけるように」という意志があること。この小さないすみ市の中でも、いラ研及びいすみオーガニック運動のまわりには、個性あふれる「人」が集まっていること。豊かな里山環境や、学校給食米の有機化という実績とも相まって、いすみのポテンシャルを感じるヒアリングとなりました。
一方、課題だった「誰向けに何を訴えるパンフレットなのか」や「自分たちは何を求められているのか」については、依然、フォーカスしきれず。プロボノチームのマーケッター、林幹央(みっきー)さんは、「聞き手の私たちは、いラ研さんにはきっと明確な課題認識があり、それをパンフレット制作のテーマとして全員が共有しているのだろうと思い込んでいました。でも、結果的に、いラ研さんの中にもいろいろな考え方があることがわかった」と振り返ります。同じくマーケッターの杉山さんも、「当初、求められていることが盛りだくさんで、テーマが絞れていない印象がありましたが、現地の雰囲気と皆さんの声に触れたことで、それらが全部つながっていて、何かを切り離して考えることはできないのだと、肌で感じました。あれもこれもとなるのは当然だと。ただ、私たちはどうすればよいのか、このときはわからなかった」といいます。
団体への中間提案が1カ月後に迫る中、折しも、チームのプロジェクトマネジャー交代という不測の出来事も起こりました。そこで11月初旬、この停滞を解消するため、方向性についての合意が必要と考えた新任プロジェクトマネジャーの辻崇(TED)さんの発案により、辻さん、杉山さん、マーケッターの山本欽章(きんしょう)さんの3人が、急遽、いラ研への二度目の訪問を決断しました。
「プロボノチームがとらえたいすみオーガニック」を伝えてほしい
マーケティングチームは、この訪問のため、その時点で手元にあった情報をもとに急ごしらえの提案資料を用意。しかし、作成に携わった山本さんは、それが捨て案となってもやむを得ないと考えていたそう。理由は、「前回のヒアリングを通じ、いラ研さんの意向と我々の進め方の間に微妙なずれを感じ、意見交換やチームミーティングを重ねるにつれ、それが大きくなっていく感触があったから」。これを機に、チームに本当に求められていることが少しでも浮き彫りになればと考えていたといいます。
結果的に、提案が合意に至ることはありませんでした。しかし、この日、いラ研から改めて示された要望は、プロボノチームに転換のきっかけをもたらしました。それは、
「いラ研側の答えを形にしてほしいのではない」
「“プロボノチームがとらえたいすみオーガニック”を伝えてほしい」
というもの。まさに「いラ研側の答え」を探し求めてきたチームにとっては、想定外の指針でした。しかし同時に、根本的な出発点の違いに気づく機会ともなり、「いラ研さんから『そう来たか!という視点を期待しています』といわれて、そういうことだったのね! と納得がいきました」と杉山さん。
予想以上の期待と宿題を背負いはしたものの、確たる指針をようやく得たプロボノチーム。ここから、議論を加速させていきます。
【プロジェクト進展】
10月4日 プロボノチーム初顔合わせ(オンライン)
10月10日 団体とプロボノチームによるキックオフミーティング(オンライン)
10月14日・24日・31日 チーム内ミーティング(オンライン)
10月18日 現地訪問(団体とのミーティング及びヒアリング・団体の活動の関係者へのヒアリング)
11月1日 現地訪問(団体とのミーティング・農業生産者へのヒアリング)