霊峰白山の麓に位置し、周囲を1000m級の山々に囲まれた福井県勝山市。九頭竜川の中流域にあり、県庁所在地の福井市からはえちぜん鉄道で1時間、車で40分ほどのところにあります。人口は2万2千人あまり。街の中心には清らかな用水が流れ、織物で栄えた当時を偲ばせる商家が点在して風情ある街並みをつくり出しています。
この勝山市には、連日多くの観光客が訪れます。お目当ては「恐竜」。世界三大恐竜博物館の一つとも称される「福井県立恐竜博物館」には、多い時には1日1万5千人が訪れるといいます(現在はコロナ感染対策で来場者数を制限)。
“恐竜のまち”勝山のリピーターをつくりたい
「恐竜のおかげで、勝山市を訪れてもらうのは比較的簡単なんです。今、ぼくらがしなくてはいけないのは、『次もまた勝山を訪れたい』と思ってもらえるための仕掛けづくりです」
そう語るのが、今回、プロボノチームの力を借りることになった勝山市観光まちづくり株式会社のマネージャー・今井三偉(みつい)さん。
勝山市観光まちづくり株式会社(以下、まちづくり会社)は設立してまだ5年目の若い会社。勝山市には観光協会がなく、その役割を担う会社です。DMO*にも認定され、地域に観光で還元するためのさまざまな事業を進めています。
2020年6月20日。まちづくり会社が運営を受託している「道の駅 恐竜渓谷かつやま」がオープンしました。高速道路のIC近くにあり、福井県内で最後に立ち寄る「福井の出口」という好立地から、コロナ禍にも関わらず多い日には1日1000人以上が訪れています。
店内には、勝山市の産直野菜や特産品をはじめ、周辺の特産品が並びます。
こうした物産品の販売だけではなく「道の駅のコアとなる事業をつくりたい」と、今井さんは考えています。
「道の駅を立ち上げて3〜4カ月。経営的には問題はありません。ただ今の段階から、二の矢、三の矢を探さなくてはいけないと思っています。それが何かというのが明確に描けておらず、そこが歯がゆいところですね」
*DMO:観光地域づくり法人のこと。Destination Management Organizationの略。地域にある観光資源に精通し、地元と連携しながら観光地域作りを牽引していく法人
農業とのコラボレーションに見出す可能性
そこで今回、ふるさとプロボノへの参加を決断しました。勝山にはどんな観光資源があり、リピーターとして足を運んでもらうためにはどんなサービスが必要なのか? ニーズを整理するための「マーケティング基礎調査」が今回のミッションです。
リピーターになってもらえる事業を道の駅で展開したいと考えた時に、今井さんの頭の中にずっとあったのは、農業との連携でした。
「道の駅では、勝山でとれた野菜の産地直売を行っていて、勝山の生産者さんとすでに繋がりがあるので、みなさんを巻き込んでいきたいと思っています。例えばイベントスペースでマルシェをしたり、農業の体験型事業ができれば面白いかなと」
そのためにはいくつかの課題を解決する必要があります。勝山は、米のほか、産地として栽培しているのはトマト・里芋・そば・えごまなどと、比較的少なく、果物や畜産などはありません。農業体験をしてもらうとなると、通年で提供できるものがほとんどないため、知恵を絞らなければなりません。また、これまで農業体験や農泊などを受け入れた経験がない農家がほとんど。オペレーションなどに不安があり、積極的な受け入れをできずにいるのが実情です。一方で、農業体験や農泊を受け入れることは、農家にとっては新たな収入源となる上、勝山全体としても、観光資源としてリピーターの獲得にも繋がります。
「今回のプロジェクトで、現状を把握して、ニーズなどを可視化できれば、取り組みを推進するための根拠となります。これを示せば、農家のみなさんにしっかりとした説明ができるし、理解していただけると思うんです」
プロボノワーカーが地域にもたらすもの
元々、プロボノの存在には注目していたという今井さん。勝山のさまざまな人たちと、プロボノワーカーが一緒にプロジェクトに取り組むことで、ミッション以外の多岐にわたる効果を期待しています。
「正直、僕らもプロボノワーカーと協働するのははじめてなので、どこまで成果があるか未知数です。ただ成果そのものだけではなくて、都会で専門性を持って仕事している人たちの目から見て、僕らのやっていることはどう見えるのか?いろんなところで意見をいただきたいと思って期待しています。
勝山にずっといると、勝山のスタンダードが世の中のスタンダードだと思っている人もいて、そうじゃないんだよと。地域の人がプロボノのみなさんと繋がることで、新しい刺激になるといいかなと。
一方で、こうして地方で働くことに興味のある方に、プロボノ活動などをきっかけに勝山に来ていただく。いずれは、都会で働きながら、土日だけ、あるいは3カ月に一回だけとかでも、リモートでとかでも関わっていただけるようになるとうれしいし、そういった新たな働き方の可能性も示せるのではないかと思っています」
2020年10月10日、プロボノチームのメンバーが初めて勝山を訪れました。まちづくり会社とのキックオフミーティングを行うためです。その1週間前からチームではオンラインミーティングを重ね、この日のために議論してきました。「まずは、まちづくり会社の目指すことと、その優先順位の確認をしたいと思っています」と話すのはプロジェクトマネジャーの村山緑さん。いよいよ勝山市のふるさとプロボノが始まります。