里山を守り続けるパイオニア
「里山倶楽部」は前身団体の活動を引き継ぎ、1995年に誕生。「好きなことして、そこそこ儲けて、いい里山をつくる」を理念に掲げて活動を展開し、2002年にNPO法人となりました。
「30年前は、ボランティアや里山保全という言葉も、まだ一般的ではなかった時代。里山や自然に関わる活動に取り組むならば、自分たちで団体を作るしかなかったんです」と、里山倶楽部事務局の寺川裕子さんは当時を振り返ります。
大学時代に登山サークルで活動していた寺川さんは、卒業旅行でネパールの山を見て感動。その後、不動産会社に就職したところ当時はバブルの全盛期。ゴルフ場や大規模なリゾートホテルの開発などによって自然が破壊されていく状況にジレンマを感じたことが、里山保全に目覚めたきっかけだそうです。
もともと里山には生物多様性や自然災害の防止、水源の涵養、地球環境の保全、レクリエーションや癒しなど多面的な機能があります。里山は人間の暮らしの営みに必要な食料や水、燃料、木材など、たくさんの恵みをもたらしてきました。
しかし、1960年代から日本のライフスタイルが急速に変化。石油や電気の普及にともない、日常生活で薪や木炭が使われなくなりました。さらに、低価格な輸入材に圧迫されて国内の林業は低迷。現場を担う人々の高齢化や後継者不在という現実もあり、手入れをしない荒廃した山林や耕作放棄地はどんどん増加しています。この状況を何とかしたい。たくさんの生きものと共存する美しい里山を取り戻し、「人」と「里山」との関係性を再構築したい。そういう想いが里山倶楽部の活動の根底にあります。
2回目のプロボノワーカーとの協働
里山倶楽部の特徴は、事業グループごとに独立採算制で動いていること。やりたい人がそれぞれ事業を立ち上げ、収支の管理も各グループに委ねられています。事業による収入の一部を里山倶楽部事務局に共同運営費として納めることが条件で、それ以外の収入は各グループで自由に使うことができます。「儲け」も「赤字」も自分持ちなので、グループのモチベーションが高く、里山倶楽部としても赤字にならない仕組みです。現在は雑木林の再生や人工林の間伐、棚田の管理などの里山保全事業をはじめ、無農薬野菜や薪などの生産販売、環境教育、人材養成などの事業が展開されています。
「荒れてしまう里山は経済が回らない、人が残らないことが問題の根本。私たちは新しい“里山的”生き方・暮らし方の提案をしていきたい」と、寺川さんは語ります。里山倶楽部では「里山と暮らす応援講座」「スモールファーム自給塾」「源流米パラダイス」「里山キッズクラブ」などの講座やイベントを通じて、実践的な学びの場や里山と関わる生き方のヒントを提供。里山的な暮らしの実践者を増やしていくことを目指しているそうです。
「里山倶楽部は里山保全の団体のなかでも、生き方や暮らし方のような価値観に踏み込んだ活動をしています。私たちはNPOとして社会変革や人のあり方に影響を与えることを意識しながら、新たな評価軸を生み出し、問い続けていく団体でありたい」と、代表の新田章伸さんは話します。
里山倶楽部の活動の大きな柱となっている「里山と暮らす応援講座」「スモールファーム自給塾」は、「相続した山を活用したい」「山の手入れや農作業の技術を具体的に学びたい」などの理由から、これまで約200 名が受講しました。しかし、里山倶楽部で得た学びがその後も役に立っているのか?実際に就農したり、里山暮らしを始めるなど、生き方や行動に何か変化や影響はあったのか?運営スタッフ側も卒業生のフォローや把握までは手が回っていないのが現状でした。これらの過去の受講生の状況を調査し、里山倶楽部の活動意義や成果を可視化することが今回の「ふるさとプロボノ in 農山漁村」活用の狙いです。
里山倶楽部は、2015年にもサービスグラントのプロボノチームとウェブサイト制作で協働した実績がありました。前回は外部から新たな視点が加わり、活動内容の棚卸しができたことで、里山倶楽部の活動理念を「新しい“里山的”生き方・暮らし方の提案」に刷新するきっかけにもなったそうです。
活動の成果を探る「あの人は、いま」
10月初旬、プロボノチーム5名は初顔合わせを実施。自己紹介をして、今後の情報共有ツールや定例ミーティングの予定などを確認しました。今回のミッションは「事業評価」。「里山倶楽部の講座固有の成果を明らかにし、活動の評価や広報の付加価値につなげること」が目的です。翌週、東京のプロボノチームと大阪の里山倶楽部は、Zoomによるキックオフミーティングを開催。今回のプロジェクトの目的や現状の課題、スケジュールなどを共有しました。
里山倶楽部代表の新田さんは「受講の前後でどのぐらい林業や農業との距離が縮まったのか?参加者の生き方や暮らし方にどんな変化があったのか?私たちからストレートには聞きづらいので、心理的な変化も含めて、第三者の立場から具体的な事例や本音を聞いてもらえるといいですね」と期待。事務局の寺川さんは「過去の受講者がこの調査をきっかけに、里山の活動に再び足を運んでもらって、つながることができればありがたい」と語りました。
これから4カ月にわたる「里山と暮らす応援講座」「スモールファーム自給塾」の参加者の追跡調査。プロボノチームは、団体が認識している課題にどう向き合うか、認識していない課題をどう見つけるか。里山倶楽部の30年間の活動の成果をひもとくチャレンジが始まります。