2.キーノート「地域経営における外部人材の活かし方」

法政大学現代福祉学部教授の図司先生より、地域における外部人材の変遷とプロボノの位置付けについてお話いただきました。

図司 直也(ずし なおや)氏  法政大学 現代福祉学部教授

図司 直也(ずし なおや)氏
法政大学 現代福祉学部教授
1975年愛媛県生まれ。東京大学農学部を卒業し、東京大学大学院農学生命科学研究科農業・資源経済学専攻に学ぶ。2005年に同研究科博士課程を単位取得退学。博士(農学)。財団法人日本農業研究所研究員、法政大学現代福祉学部専任講師、准教授を経て、2016年より現職。農林水産省・新しい農村政策の在り方に関する検討会委員、中山間地域等直接支払制度に関する第三者委員会委員、(財)地域活性化センター・地域リーダー養成塾主任講師等、地域振興・人材育成に関するアドバイザーを歴任。専門分野は、農山村政策論、地域資源管理論。
主な著書は、『就村からなりわい就農へ』(筑波書房)、『地域サポート人材による農山村再生』(筑波書房)、『プロセス重視の地方創生』(共著:筑波書房)、『内発的農村発展論』(共著:農林統計出版)、『人口減少社会の地域づくり読本』(共著:公職研)、『田園回帰の過去・現在・未来』(共著:農山漁村文化協会)、『農山村再生に挑む』(共著:岩波書店)など。

私の専門は農業経済学で、農村の地域づくりの現場を色んな形で関わってきています。
特に、東京から農村の現場に足を運んでいく中で、私自身もよそ者の一人になって、どういう形で現場の皆さんのお手伝いができるか実践しながら試行錯誤してきたところもあり、プロボノに参加されている皆さんと、目線としてはかなり近いところで関わってきたと思います。

都市部から農村部に人が動いていく流れ

都会から地方へ向かう動きの特徴
都会から地方へ向かう動きの特徴

ふるさと回帰支援センターの副事務局長を務められ、國學院大學に移られた嵩准教授がまとめられた資料では、高度経済成長期のピーク後、2000年代に入ってトレンドが変わってきました。学生が農村に行く主体であったところから、定年退職を迎える団塊世代に照準を合わせて、「ふるさと回帰」という言葉が出てきました。いわゆる定年帰農のような形で、定年退職したら地元に戻って、親から田んぼを継いで米を作るような動きです。

2000年代後半からは、主体が現役世代の若手の人たちに移ってきました。なぜ若者は農山漁村に向かうかが注目を浴びて、雑誌の記事などで取り上げられました。阪神淡路大震災以降、災害支援としてボランタリーな形で、都市部の人たちが被災地域に応援に行く動きが重なり合ってきたことも大きいと思います。
そういう人たちが単に復興支援として災害の片付けを手伝いするよりも、もう少し長いスパンで地域に滞在しながら、それを県や国がバックアップしていく復興支援員という仕組みを揃えていく話にもなってきています。
そのような大きな流れが見て取れる中で、プロボノの動きもまさに重なりあうところかと思います。

外部人材像の世代が広がってきて、農山漁村に向かう目的の違いも見て取れそうな気がしています。上の世代の皆さんは、元気でもいっぱい働いた後にはのんびり田舎で暮らそうか、というところがありますが、現役世代の皆さんは、自分の仕事をどういう風に社会とつないで行こうかとか、あるいは働き方が変わってきている中で、どこで自分のパフォーマンスを出して行こうかということを、常に探りながら進んできているところがあると思います。
それと共に、都市部から農村に人が動いていく都市農村交流の質が変わってきたところがあります。
農村に行ってアクティビティーを楽しみ、短期滞在をして余暇を過ごすグリーンツーリズムから、むしろ地域の人たちと交流を深めていく中で、懐に入り、何か手伝いをしたり、繰り返し地域を訪ねていき、やがてスタッフとして地域に入り込んでいくような若い人たちが登場していく動きが、各地で見られるようになってきました。

地域サポート人材の活動プロセス

都市部と農村部の人たちがフラットな関係で交流をしていく中で、「関わり方」も変化してきて、地域の皆さんとうまく関係性を作っている方々の共通項が見えてきました。

地域サポート人材の活動プロセス
地域サポート人材の活動プロセス

それは、この三角形の下から積み上げていくような発想です。
「生活支援活動」というのは、いわゆるお茶飲みみたいな話で、普段の暮らしのところで、お互いの何気ない話をしに行く。「コミュニティ支援活動」は、集落活動や地域活動で一緒に汗をかいて手伝って、終わったあとに一緒に一杯飲みにいくような感覚です。
そういう信頼の関係性をしっかり丁寧に作った先に、新しいものを生みだしていく「価値創造活動」として、お金を生み出していく経済的な活動へ踏み込んでいく。

おそらくプロボノも、この三角形の積み上げ方が、絶妙にうまく構築されている気がします。外の都市部から農村部に訪れる方のマインドも、そういう人たちを迎えいれる地域の皆さんも、この積み上げみたいなことを大事にしている。とかく一番上のお金を生み出すところが注目されがちですが、ここに重きを置き過ぎると、ひっくり返って三角形が逆三角形にもなりかねないわけですね。

実際、農村部に移住定住する若い人たちが出始めています。ボリュームとしては決して大きくはないですが、そういうものを大事にしようという人達が着実に生まれてきています。
そういう皆さんの動きを、我々は平仮名で「なりわい」と表現したりするわけですが、鳥取大学の筒井先生は「なりわい」を三つの要素で組み合わせています。

農山村で立ち上がる若者たちの「なりわいづくり」
農山村で立ち上がる若者たちの「なりわいづくり」

左側の、「仕事」と「ライフスタイル」と「地域とのつながり」。
「仕事」は生活の糧、お金を稼ぐことになります。それと共に、地方や農山村で自分ができること、自己実現の可能性を探りながら関わっていく生き方、「ライフスタイル」があります。そして、「地域とのつながり」の中で、農山村に根差した色々な資源を活用する。地域の人たちのスキルや技、文化をうまく受け継ぎつつ、地域の人たちが困っているところを、外から関わった自分にできることとつなげていこうとする発想を持っていたりします。

自分自身の関心や自己実現の要素と、地域の課題解決を、まさにクロスさせながら、「個人の問題」と「地域の問題」が混じり合う形で実現されていく。これも、ふるさとプロボノの大きな特徴ではないかなと感じています。

変化に揺らぐ農山村地域の今

地域では、とかく人口減少や高齢化みたいな話で語られがちですが、私としては農村が農村でなくなっていると表現しています。農村では、農業をやっている人たちがほとんどいなくなってるわけですね。農業に関わっていない人たちが、都市部と同じようにある程度の割合を占めるようになってきたのが今の農村や地域社会です。

私も現場に入って、そこに暮らす人たちが実はお互いのことを知らないということがわかってきたところがあります。地域の人たちも、そこにあるものの価値を知らなかったり、ここにどんな良さがあるのだろうか、と悩みながら暮らしているか、あるいは関心がない。
都市部からすれば、農村は地域に関心があり、人のつながりがたくさんあるのだろうと見えがちですが、私の見立てでは都市部も農村部もほとんど変わらないだろうと思います。

外部人材と地域住民の関わりステージの重ね上げ
外部人材と地域住民の関わりステージの重ね上げ

そのため、そういう地域に外から人が入って来て、つなぎ役として役割を果たしていくことが、まさに関係人口の勘所だという気がします。
地方創生の中で移住定住の話がされていますが、いきなり移住定住はハードルが高いわけですね。まだまだウェットなところがある農村部では、関係性を作っていく必要があります。一緒に作業をしたり、コミュニティに馴染み、地域のことを理解している人たちを、いい意味で選んでいくことが求められていくわけです。

そういう意味でも、普段の交流をまず積み上げていく。ここにも、ふるさとプロボノは非常に大きな役割を果たしていく気がします。
活動に関わっている中で、地域の人たちも「こういう人が来てくれるのか」と、自分の地域の戦力にもなる人たちが世の中にいることが分かっていく。移住する相手として、そういう人たちをどういう風に選び取っていくのか、というところに視点が向いていくと思います。

共感を活かし、プロセスを大事にした地域再生を。

地域の中で色んな事業を立ち上げたり、地域づくりの活動を起こしていくというのは並大抵のことではないと思います。中越地震の被災地エリアに関わってこられた、中越防災安全推進機構(現:ふるさと回帰支援センター)の稲垣さんはこのような図を作成されています。

共感を活かし、プロセスを大事にした地域再生を。
共感を活かし、プロセスを大事にした地域再生を。

おそらく過疎地域や災害を受けた地域は、地域力がゼロからマイナスモードに下がっている。そこでいきなり新しい事業を起こしていくことは、なかなか大変ですし、仮にそれがうまくいかなかった場合は、もう二度とやるかと地域は諦めてしまいます。

そこで、マイナスモードのものを地域の人たちと話をしたり、ちょっとしたことをトライアルしたり、あるいはみんなバラバラという話もあるので共通のことをやってみて、マイナスモードをゼロまで戻していく、いわゆる助走期間が大事じゃないかという話が言われています。
そこを稲垣さんは「足し算のサポート」、寄り添い型の支援と表現しています。ある程度、共通の目標を共有できる場が温まってきたところで、初めて経済的な話や事業性のあるものにスイッチしていく。これをかなりの時間をかけながらやってきて、被災地となった中越の集落は、いま元気になってきてるんですね。まさに「掛け算のサポート」に変化してきた。

こうしたサポートの局面をどういう風に捉えていくのか、おそらくふるさとプロボノに関しては、「足し算のサポート」と「掛け算のサポート」、両方の要素を絶妙に組み合わせているんじゃないかなという気がしています。

コンサルティングの仕事や我々の立場ですと、右側の「掛け算のサポート」からいきなり突っ込んでいく形になりがちですが、それが地域の人たちに響かなければ意味がないわけです。むしろ地域の人だったら仕事の話は置いといて、汗かいて草刈りやって終わってビールを飲む、そういう話を丁寧にやった先に、本音の話ができるようになり初めて仕事の話や地域の話、研究ベースで何がお手伝いできるか、という話が引き出せるようになるんじゃないかという気が私もしています。

局面をしっかり見て、どういう風な手当てをしていくのかといった判断も非常に大事な気がします。そこをしっかりやることで、地域の中でも、担い手の世代継承や、誰にバトンを渡していくのかという話も、その構造の中に描いていけると思っています。

今日のテーマに寄せて

このように捉えると、ふるさとプロボノには、非常に可能性があると思いますし、裾野の広さも感じます。

ふるさとプロボノを先程の「なりわい」に置き換えて、仕事・ライフスタイル・地域とのつながりの3要素と、課題解決をどういう風にうまく組み上げていくのか、コンサルの人たちに仕事を発注するものと何が違うのか、地域の人たちと外からサポートに入ってきた人たちの関係性の中に何が生まれてきているのか、それが地域の人たちの内発力や地域力をどういう風に高めるところに刺さっていっているのか、その辺りを議論できると、ふるさとプロボノの本質が見えてくると思っています。

※本記事は2021年7月15日時点の情報を基にしています。
→3.事例発表1 青森プロボノチャレンジの軌跡へ
←1.プロボノの基礎知識へ

 

(都市の社会人向け)