3.事例発表1 青森プロボノチャレンジの軌跡

上明戸 健一(かみあきと けんいち)氏 青森県 環境生活部 県民生活文化課 総括主幹 文化・NPO活動支援グループマネージャー

【事例紹介】
上明戸 健一(かみあきと けんいち)氏
青森県 環境生活部 県民生活文化課 総括主幹
文化・NPO活動支援グループマネージャー
1971年青森県十和田市生まれ。大学卒業後、1996年青森県入庁。生活保護のケースワーカーや児童福祉司など福祉関係業務に従事。以降、青少年健全育成、県基本計画、県環境計画策定などの業務を経て、2017年に県民生活文化課へ異動。NPO担当となり、新しい社会貢献、働き方である「プロボノ」に着目し、青森県型地域共生社会の実現に向けた施策の一つとして、2018年から認定NPO法人サービスグラントと協働し「青森プロボノチャレンジ」を展開。青森県内に「プロボノ」による活動を普及させるため取組を進めている。

 

江上 昇(えがみ のぼる)氏 尼崎市役所 こども青少年課 係長

【モデレーター】
江上 昇(えがみ のぼる)氏
尼崎市役所 こども青少年課 係長
大阪市出身。元漫才師。2006年尼崎市奉職。
2012年「大阪ホームタウンプロボノ」に参加し、出身地に近い放出エリアのまちづくりに関わる。現在は元漫才師の経歴を生かし、お堅い行政のテーマを漫才でわかりやすく伝える「お笑い行政講座」のほか、複数のNPO、任意団体で活動中。「月刊ガバナンス」にて「誌上版!お笑い行政講座」連載中。

なぜ青森でプロボノなのか

上明戸:まずは、なぜ青森県でプロボノを始めたのかご紹介します。

なぜ青森でプロボノなのか
なぜ青森でプロボノなのか

全国的にも人口減少が進んでいることは共通の課題だと思います。青森県は、2015年の国勢調査で人口が130万8千人になりましたが、2010年と比較すると6万5千人が減り、4.7%の減少幅は当時過去最大と言われていました。
直近の2020年の国勢調査では人口が123万8千人となり、2015年と比較すると6万9千人が減り、減少幅はさらに拡大して5.3%、悪い意味で過去最大を更新しています。10年で約13万人の方々が、青森県の人口から減少していて、2020年の国勢調査によると全国で3番目に高い減少率となっています。

そこで青森県では、青森県型の地域共生社会の実現に向けて、「県民の誰もが住み慣れた地で、安心して暮らしていくことができる社会」を目指す取組みを進めています。今現在地域で中心的な担い手として頑張って活動している住民や団体の皆様は、活動への思いの強さや地域活動の経験はあるものの、その活動を継続・維持・発展させていくための運営面での課題を抱えていました。人口減少が進んでいく中で、どうしようか考えていたところ、「新しい社会貢献」、そして「新しい働き方」のプロボノに着目をし、共生社会づくりに生かしていけないかと企画を進めていきました。

青森プロボノチャレンジ 実施までのステップ

初めてのことはなかなか踏み出しにくく、いきなり事業化することは難しいので、私自身も、まずは勉強しなければいけないと考え、前任者が企画していた「ボランティア・社会貢献活動推進フォーラム」へ参加し、講師として登壇いただいたサービスグラント代表理事の嵯峨さんにお会いしました。それから、東京で実施されていたプロボノプロジェクトについて勉強させていただくため、「東京ホームタウンプロジェクト」のオリエンテーションにお邪魔したり、プロジェクトの動きを追いかけたり、どういうところが肝か自分の足で歩いて見て回り、いい取組みだと感じて実際に企画することにしました。

2018年、企画を内部に説明をするために、現状の課題と対応策を整理しました。

青森プロボノチャレンジ実施までのステップ
青森プロボノチャレンジ実施までのステップ

まず一つ目の課題は、プロボノが知られていないことです。県庁の中も県民もプロボノという言葉自体がわからないということで、知名度を向上するための「セミナー」を考えました。
2018年6月にセミナーを開催しプロボノの取組みについてご紹介して、企業や団体の方々にプロボノ活動の理解を深めていただきました。育休・産休中のお母さんたちがプロボノをする「ママボノ」に関心を示してくださった青森市の子育て団体「ココネットあおもり」とつながることができ、青森県内でのママボノ活動を現在まで一緒に進めています。そうした成果も生まれました。

二つ目の課題は、プロボノに興味関心を持ってもらったとしても、どうすればプロボノができるのか取組み方がわからないという現状を踏まえ、実践の機会として「青森プロボノチャレンジ」を企画しました。
2018年は9~10月の2カ月間でプロボノチャレンジを実施し、会社員や公務員、子育て中のお母さんなど22名の方に参加いただきました。

三つ目の課題は、このプロボノの良さを、どうやったら皆さんに共感いただけるか、伝えることができるか、ということでした。説得力を持って伝えるために「青森プロボノチャレンジ」の実施結果を検証してみようと考えました。株式会社リクルートマネジメントソリューションズ組織行動研究所の方に、検証業務を依頼して、実際に参加された方のインタビューやアンケートを取り、具体的な成果をまとめていただき、2019年1月の「シンポジウム」で検証結果について話をしていただきました。

青森プロボノチャレンジ2018~2020

青森プロボノチャレンジ2018~2020
青森プロボノチャレンジ2018~2020

2018年度は、青森市を中心に子育て支援団体など5団体。2019年度は八戸市にウェイトを置いて5団体。2020年は青森市と黒石市の4団体を支援しました。

青森プロボノチャレンジ2018~2020
青森プロボノチャレンジ2018~2020

これまで69名のプロボノワーカーの皆さんに参加いただいき、4分の1ぐらいは県庁職員など公務員の方にも参加いただいています。
ママボノには、例年1チームずつ参加いただいており、延べ17名が参加しています。

2020年からは、新しく「ふるさとプロボノ」も始めました。県外にも人材の裾野を広げていきたいという狙いもあり、首都圏の在住者4名が県内のプロボノワーカーとチームを組んで活動しました。コロナ禍での対応に十分配慮しながら、首都圏プロボノワーカーが青森入りしたときは、オリエンテーションやミーティング、団体の活動現場の見学や、団体の方々へ直接ヒアリングをしました。

プロボノ活動の様子
プロボノ活動の様子

首都圏メンバーは、遠隔でもできる統計調査や、オンラインミーティングの手配を担い、青森のプロボノワーカーは団体や関係者のヒアリング、現地の写真撮影や、団体からの素材収集などを担い、役割分担をしながら、うまくチームがまとまっていきました。メンバー個人の得意分野を活かしていく体制が自然に生まれて、素晴らしい成果に結びつきました。

公務員がプロボノで出来ること(クロストーク)

江上:青森県のプロボノでも公務員の方の参加があったようですが、公務員のプロボノへの関わり方を聞かせてください。デザインやマーケティングなどの専門性がない公務員が、プロボノで出来ることは何かあるのでしょうか?

上明戸:公務員の方は、皆さんスキルがないとおっしゃるのですが、主に事務処理を担当している方であればその事務処理能力自体が素晴らしいスキルだと考えていただきたいと思います。
NPOや地域団体で、事務処理に課題を抱えているところも多く、実は各種書類やマニュアルを作るところでスキルを活かすことができます。マニュアルを作ってみたら、当初10ページ想定だったものが、40ページを超える内容の濃いものができあがり、団体の方からも「やっぱり公務員の方は凄い。ここまでの仕事は、自分たちの活動をしながらではなかなかできない。公務員の方はぜひ毎年プロボノをやってください。」という声が出るぐらい、公務員のスキルを団体の方々は望まれています。

スピーカーの上明戸氏(左)とモデレーターの江上氏(右)
スピーカーの上明戸氏(左)とモデレーターの江上氏(右)

江上:首都圏からもプロボノチームに入ったという話がありましたが、関東や大都市圏から人に来てもらうのって、お金かかるのかとか、どうやったらうまく行くかみたいなことはありますか?

上明戸:本県の場合、枠組みとして4名程度の募集枠を決めて、一度青森に来る分の費用弁償は出して、実際に一回はお越しいただいています。
やっぱり青森の現地に足を運んで、実際の活動現場に来て、現地の生の声を聞いて、実物を見ることが非常に大事なので、そこの部分の支援はしています。
ただし、その後青森にいらっしゃる機会が必要であれば、自費でお越しくださいということでお願いしていますが、その後も何度も自費でいらっしゃって最後まで一緒に活動を行っていました。一回来ていただくための支援を前提に考えておくと、県外の方も参加しやすいのかなと考えています。

江上:東京から一回は現地に赴いて、二回目以降は自腹になるにしても、「これはもう行かざるを得んぞ、行きたいぞ」となるわけですね。
人材育成の面でもプロボノっていいんじゃないかという話があると思いますが、参加した公務員にどんな変化があったとか、この辺が良かったということはありますか?

上明戸:私もプロボノに参加しましたが、自分のスキルをあんまり自覚しないまま過ごしていたと感じました。プロボノでは、チームのリーダーとして調整をする役割を担いましたが、そういう調整業務は日々の業務の中で必ず出てくる部分でした。
相手の話を聞いたり、日程を合わせて、いつどういう打ち合わせをしようか、という段取り的な部分は、プロボノチームの中でも必要なことでしたが、すんなりと進めていくことができました。

また、プロボノワーカーとして参加した若い職員が、今まで経験したことのないようなマニュアルづくりを通じて、作り上げていく過程や企画に携わったことで、「私って、実はこういう仕事好きだったかも。」と新たな気付きになっていました。自分が持っているスキルを、改めて自覚することもできます。

それから、ふだん感謝される機会はなかなかないので、自分が当たり前だと思っていることが、実は団体の方にとって凄いことで、「本当にどうもありがとう!助かった!」と言われる。その一言で、本当にやって良かったな、自分でも役に立つことがあるんだ、ということにも気づかされたという参加者の声が圧倒的に多くあります。やはり皆さんにも是非お勧めしたいと考えています。

※本記事は2021年7月15日時点の情報を基にしています。
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(都市の社会人向け)